《C》 コルテス種多し


いざ出陣!

コルテス海のある
カリフォルニア湾は
コロラド川河口から南西に
細長い湖のように
1120kmも延びている。

湾はシエラマドレ山脈と
カリフォルニア半島に囲まれ
砂漠気候に支配される。
降雨量が少ないので海は
塩分が多く浮力が大きい。

デンバー近くの
標高4398mエルバート山
から流れ落ちる
コロラド川は
グランドキャニオンを経て
この海に注ぐ。


コロラド川の豊かな養分が
この海の魚を育て
海馬のパラダイスを
可能にしている。

湾の出口は僅か100km程で
閉ざされた海に近く
紅海のように固有種が多い。

ここはサンホセ島の南にある
サンフランシスキートの
断崖絶壁に囲まれた蒼い海。
未知なる惑星の海を
想わせる景観に痺れる。

寝起きの朝飯前の
最初のDVが
人影の絶えた未知惑星の
海だなんて実に
嬉しいね。


群れて捕食
King Angel Fish


日本には棲息しない
キング・エンゼルFに初めて
出逢ったのは
忘れようたって忘れられない
嵐のココ島。

雨と風が激しく波荒く
大きく上下する船では
ゴーグル無しでは
目が開けてられない。

そんな海で撮った
最初のキングAFだが
残念なことにピンが甘く
サムネイルでしか
載せられなかった。


ここコルテス海では
実にうじょうじょ居るのだ。
それもご覧のように
ダイバーが近寄ろうが
平気の平左で
恐れることなく餌をあさる。

エンゼルフィッシュの中では
決して美しいとは
言えないむしろ地味な魚
なのに何故キングなのか?

口元を見ると黄色い
髭のような模様があるが
どうもこれが
王様の髭のように
見立てられたようである。



コルテス天使魚
Cortes Angel Fish


コルテス海は
Hernan Cortes
(1485頃〜1547)の名をとって
命名された。


コルテスは
コロンブスの新大陸発見に
刺激され夢と野望を
抱いてスペインから
やって来た。

大西洋を渡って1504年
イスパニョーラ島に着く。
コルテス僅か19歳。

華麗で色鮮やかな
AFの中にあって
このコルテスAFは何とも
地味である。
野望を抱く前のコルテスを
彷彿とさせる。

大学でラテン語を
学んでいた地味青年は
やがてこの地味な文様を
脱ぎ捨てて
華麗な南米の侵略者に
変身するのだ。



お食事中です
Yellow Tail Surgent Fish

Surgent Fishは日本では
ハギの仲間を表す。
ハギには3つの特徴がある。

1つ目は鋭い歯を持つ
小さい口で
これは岩にしっかり付いた
藻類を食べるのに
適応している。

2つ目は円盤状の
体形にあり
3つ目は尾柄にある
外科医のメスのような
棘にある。
この棘がSurgentの
由来である。


この魚にそっくりな
Chanco Surgent Fishが
出現したりして
コルテスの固有種も
中々同定に惑うのだが
どうもチャンコは
全身の細かい黒点が
無いらしい。

でこれは間違いなく
イエロー・テイルなのだが
これも何とも地味である。

思い切り接近して
聴いてみる。
『君達も随分地味だね。
コルテスの仲間かい?』


『生きてる人間の心臓を
取り出して
真っ赤な血を太陽に

捧げてた頃はもっともっと
皆華麗だったのさ』


蒼い宝石
Damesel Fish


ハハーそれは
アステカ帝国の双子神殿の
生贄儀式のことだな。
それとコルテスと
どうリンクするんだ?

そうかその前に
カリブ海やメキシコ湾から
遥か離れた
カリフォルニア湾に
どうしてコルテスの名が
付けられたか
調べる必要があるな。

未だパナマ運河も
出来てなかったから
きっとコルテスは陸路で
エルドラドに来て
それから航海したんだ。

蒼い宝石ダムゼルが
素早く身を翻し
きらっと光りうなずく。
『もう一度コルテスの
おさらいをして』



El Bajito
キャニオンを舞う

Barber Fish


それではと、コルテスは
19歳で新世界に夢を求め
大西洋を渡り
36歳でアステカを征服。
37歳の1522年に
スペイン国王から
ヌエバ・エスパーニャ総督
(新スペイン国)
に任命される。

そのコルテスの名をとって
カリフォルニア湾の
南部をコルテス海と呼ぶ。
だったよね。

そのコルテス海の
キャニオン・エルバヒトで
床屋魚に遭遇。

若しかすると嘗て
コルテス専用の
床屋だったのかもと
あほな空想にふける。
実はこれ
単なるクリーニング魚。


オヤビッチャ
Panamic Sergent Major


今から470年程前には
南部カリフォルニアは
地図に載ってない
未開の地であった。

コルテスは
1533年に船隊を派遣し
南部カリフォルニアを発見。
1535年には
自ら航海に参加し
カリフォルニア半島の
南東部の港に町を建設。
平和を意味するラ・パスと
命名した

更にその4年後に
フランシスコ・ド・ウリョアの
船隊を北米西海岸方面に
コルテスが派遣し
初めて
カリフォルニアが半島で
あると確認。
Panamic Sergent Majorが呟く。
「ふーん、それまであの長いカリフォルニア半島は
長ーい島だと思われていたのかね?」

ところでこれどう見たって『オヤビッチャ』
でも地元ガイドは固有種だとか?


縞馬ウツボ
Zebra Moray

ほんのつい最近の
出来事ですよと
縞馬ウツボが事も無く
言ってのける。

多分470年前にも
同じようにこうして
岩礁に潜り込んで好物の
烏賊や蛸を
狙っていたのだろう。
彼等にとって
470年なんて一瞬か?

それにしても
随分派手派手しい白縞。
これじゃ蛸も
直ぐ気が付いて
逃げてしまうのでは。


でと、コルテスと
カリフォルニアの関係は
解ったけど
血の滴る心臓と
太陽神への生贄儀式は
どうなったの?

そうそう、今度は470年
じゃなくて僅か30年前
1978年2月27日の
メキシコシティ。
凄い物が見つかったんだ。

人口2千万人の大都市の
ど真ん中の地下で
穴を掘ってた配管工が
浮き彫りを施した
巨大な石の円盤を発見!

その下には巨大ピラミッドが
眠っていたんだ。
このピラミッドの頂上に
双子神殿があり
ここで心臓生贄の儀式が
行われていたと判明。
世界を驚かせたニュースだ。



闇の帝王
Giant Moray

何よりも
闇を恐れていたんだ。

アステカ人は
沈んでしまった太陽が
再び現れなかったら
世界の終焉が
やって来ると知っていた。

一体太陽は何を食べて
あれ程真っ赤に
光り輝いていられるのか?
その食べ物を
与え続けなければ
太陽は死んでしまうだろう。
つまり世界は
終わってしまうのだ。

真っ赤で動き続ける物
それが
太陽の食物に違いない。
それは・・・
Giant Moray  


血の滴る心臓に違いない。
それを毎日与えれば
太陽は甦り昇って来る。

『闇の帝王』が続ける。
「そうさ、それで
青いトルコ石の装飾を
施した黒曜石のナイフで
胸を切り裂き
まだ脈打っている心臓を
つかみ出して
石造”チャックモール”の
腹の上の皿に乗せて
太陽に捧げたのさ」

あんぐり口を開けた
Moray Eelが問う。
「ほぼ毎日だぜ。
その生贄人間をどうして調達
したか知ってるかい?」
Moray Eel 闇の帝王のセリフ:スタンプ・メイツより引用



アンデス遠征・1980年
儀式用ナイフ
トミー

心臓を取り出す
儀式用ナイフとはどんな
ものなのか?

トルコ石の装飾もないし
黒曜石でもないが
少年が持っていたナイフは
まさしく儀式ナイフの
イミテーションであった。

山荘の『ぷち博物館』
収蔵品にあったのを
すっかり忘れていたのだ。
長さ25cmもある
かなり大きいナイフだ。

ペルーアンデスの最高峰
ワスカラン(6768m)
登りアマゾンを訪れた旅で
小遣い稼ぎの少年が
私に差し出したナイフが
これであった。
人影の絶えたチャビンデワンタルの遺跡に一人佇む
28年前の少年が彷彿とする。
インカ帝国の首都名Cuzco(クスコ)
ナイフ付け根に刻まれている。

(両側の石像はチャビンデワンタルの出土品模造)



《D》 彷徨・魚の森 




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