山荘ぷち博物館


中央アジア
そっと呟いてみるだけで胸が高鳴った少年時代。
初めてのヒマラヤ遠征地は
この胸の高鳴りを
満たしてくれる未踏域でなくてはならなかった。

アフガニスタンの深奥部・

オクサス源流
の未踏峰をターゲットにして
1977年私は初めての中央アジアと交わった

登山後、カーブル博物館長のモタメディー氏を訪ね
ガンダーラに触れた。
その衝撃は深く心象風景に刻み込まれた。
以来、連年30年近くも辺境の地に通い続け
手に入れたアンティック&擬きは増殖し
山荘の異空間を占領し始めた。
このコーナーでは、当隊のヒマラヤ登山報告書に記された
辺境の地への想いをピックアップしつつ
アンティック&擬きを紹介しよう。

《生命の問いかけ》を
初めて聴いたのは
シュメール人
であったろうか?

沖積土の齎す豊穣と
執拗な氾濫は、
人類史上初めての
都市文明とペシミズムを
彼らに与えた。
ガンダーラ


シュメールの
英雄・
ギルガメッシュ
は、
豊穣と氾濫の
中に
《生命の
問いかけ》を
聴いたに
違いない。
タキシラの阿修羅



剰余価値の
蓄積は
文明的進歩を
育み
必然的に
《問いかけ》を
明確化し
もう1つの世界
人類を
駆り立てる。
破壊神・シバの豊満な乳房


粘土板の世界
には
内なる荒野が
楔形文字
によって
展開され
神々との交信
求めて
ジグラットや
ミナレットが
踊るシバ


天空の高みに
突き立てられ
渺々とした
時空の彼方
旅立つ為の
巨大な墓が
造られる。
神々の合歓


やがて
もう1つの世界を
地表の果て
求めた
ダリウスが、
チベット香炉


アレキサンダーが
ジンギスカンが
遥かなる
地平線
オクサス
目指す。
昇竜香炉


夥しい血
流しながら
オクサスを
舞台にして
生命は
問い続ける。
ヒンズークシュの
峰々は、
密教香炉


朱に染まった
オクサス河を
静かに
見つめながら
幾重にも
木魂する
生命の問いかけ
優しく
抱きしめたであろう。
ラピスと酒壷


もう1つの
世界との
出逢いを
求め、
私は樹木や
岩や氷の
声を聴いた。
ペルシャ風壷


気の遠くなるような
深い時の底から
微かに
聴こえる
囁き
存在することの
重さと
憂鬱さを
忘れさせてくれた。
インカ人面壷


そのとき
私は
時を遡り
確かに
もう1つの世界を
垣間見たような
気がしたのだ。
インカ文様壷


しかし
それは内なる
荒野の
地平線
発見したに
すぎなかった。
スリナガール壷


地平線を
見てしまった人間は
地平線の
呼び声から
逃れることは
出来ない。
地平線を求めて
辺境の地
山への
放浪が続く。
アイシャドウ容器


自らの行為が
シジフォスの神話
であることを
予感しつつ
私は夢中になって
地平線を追った。
シルクロードによって運ばれた腕輪


アムダリア
名を変えて
久しき今
オクサスの
舞台に
もう1つの世界を
求める
ドラマは終わった。
吐蕃遊牧民の火打ち石


だが
私の胸の中では
遥けき地平線
オクサスを
求めて
ドラマ
始まろうとしている。
パキスタン水煙管


狂おしい程に
私の血を
燃え滾らせ
呼び続ける
次の地平線は
正しく
オクサスなのだ。
(オクサスの雪・より:1977年)
中央アジアの燭台


インダス河源流
チトラルの旧王族・
ブルハン氏の城館に泊まった。
我々がプレゼントした
日本刀に大喜びし
早速ゲストハウスに刀を飾った。
そこで
奇妙な壷に出逢う。
入り口の無い閉ざされた壷。
この壷は
何を意図しているのか?
中央アジアの
摩訶不思議な魅力の
捉われ人に
なってしまった。
チトラルの閉ざされた壷



仮面・・・

何故、仮面に魅かれるのか?
もう1つの世界への通路を開くため
古代から人は宗教儀式に仮面を用いた。
仮面を着けた瞬間に異空間へ拉致され

人は時空を彷徨う。
辺境の地で仮面に逢う度
私は仮面そのものを拉致する誘惑に駆られた。


ガンジス河の火葬場の
すぐ上に
愛染の
ネパール寺院がある。
風の気まぐれによって
焼かれた死体の
異臭に
時として包まれる
その寺院には
千を超える性交像が
神として
崇められている。
豊満な乳房
細く締まった腰
豊かに盛り上がった臀部
それらが男根を
受け入れるため
様々な体位をとり
永遠の性交
を行っている。
青ドール・ガンジス河辺


愛染を支配する
エネルギーを
否定せず
積極的に取り出し
神に近づく
手段とする
密教の

シャクティズム

死臭の煙に
包まれ
朱柱や壁面に
氾濫する。
知的存在は
いつまで
性交を続ければ
生殖原理を
不要とする
新しい生命を
獲得することが
出来るのだろうか。
密教大仮面・シャクティズム


火葬台に上がり
隠亡と一緒に
焼ける死体の間を
歩き回った。
屍を染める紅蓮も
死臭を運ぶ煙も
炎に炙られ
蠢く肉塊も
何も
恐ろしいもの
無かった。
死は私の日常風景
の中に
ずっと昔から
位置を占めていた
ように
自然に収まった。
古蜀仮面・三星堆出土


シャクティズムの
密教徒は
異次元を結ぶ
特異点である
女性性器
との激しい交接を通して
梵我一如を図った。
宇宙原理である
ブラフマン(梵)と
個人の本体である
アートマン(我)の
合一化を

鯨脊椎仮面・ムンク叫び


現することにより
生命の本質に迫り
生命の
輪廻転生
から解脱し
創造主の
支配下を離れ
自ら
神になろうとした。
(マンデカン初登頂・より:1986年)
笑う五髑髏仮面・ブラフマン


超未来へ
「大日如来の三密は
三世(過去・現在・未来)
にわたって
十万に遍満して
時間的にも空間的にも
永遠である」
「人間は宇宙であり
人間の活動
身、口、意は
時間と空間を超える」
と告げた
知的存在・密教徒の
予言を
解かねばならない。
最強の生命/獅子・パルコル


宇宙の観測手段の
全く無い七世紀
初期密教徒
超理性の方法により
多次元宇宙に
遍満する
生命を透視した。
その透視の結果と
14歳の少年の
自分だけの発見が
オーバーラップする。
霊鬼鉄仮面・ボダナート


酸素原子核の
周りを
16個の電子が
飛ぶ。
その事実だけで
私には充分
であった。
コスモス
とは正しく
私自身なのだ。
何も知らない
14歳の少年
にとって
それは
自分だけの
大発見であった。
私は恐る恐る
自分の
肉体

覗いてみた。

第3の慧眼・時空透視の仮面


未成熟な細身の
裸身があるだけで
虚空に煌く
酸素原子や水素原子や
窒素原子の
星々が
見える筈は無かった。
それは宇宙に対して
私が余りにも
大きすぎるからだ。
私に見えるのは
事象の地平線が作る
細胞の皮膜に
過ぎない。
私は超巨大な
宇宙の外に存在する
もう1つの宇宙
だったのだ。
伽楼羅・竜を常食する巨鳥


我がスートラ
意識の中に方向を持たぬ
パルスが走り
星々が見えた時
私には総てが
透視出来た。
私のスートラ
無数に煌く
星々にあったのだ。
透視の瞬間
私はずっと以前から
それを知っていたと
言う奇妙な確信
に捕われた。

(マンデカン初登頂・より:1986年)
ブータン仮面・我がスートラ


  Index ・・・・・Next