その94の2ー2013年長月 |
あれ!こんな処に葡萄が! 9月7日(土)曇 玄関 「お早うございます!里の坂下です。お願いがあって来たんですが。 あの原野の芒を秋に刈らせていただけませんかね。 刈った芒を果樹のマルチに使うと果物がとても甘くなるんです」と中庭の石段から声がするでは。 ・ 「いやーそれは助かります。どうぞどうぞ! あのままにしておくと歩けないし、冬は山火事の元にもなるし刈らなくてはいけなのですが 何しろ広くて刈払機で朝から晩まで独りで頑張っても1日や2日ではとても刈り切れず困っていたので 刈ってくれれば大助かりですよ」 |
・ 「芒を刈らせてもらうお礼を玄関に置いて置きましたので宜しく!」 あれ、刈ってもらうのにお礼だなんてとんでもないと急いで玄関に駆けつけると ありゃ!棚の上の仏像と一緒に澄ました顔しているのは巨峰ではありませんか! ・ こんな棚の上に葡萄を置くなんて変だぞ! ははーん、さては喰いしんぼうのチベット仏像め、お得意の神通力を使って床に置かれた葡萄を棚まで引き上げたな。 そう云えば右に鎮座まします破壊の神シヴァの顔がちょっと 悪戯っぽい笑みを含んでいるような? |
確かに少し笑っているいるシヴァ 玄関 |
とても唯で貰う訳にはいかないと 中庭に出てみると、 里人の坂下さんはもう既に 何処にも居ませんでした。 ・ 《仙人はいいな! あたし達も葡萄食べたい! 山荘に呼んでよ!》と叫んでる 山荘常連の妖精達の声が 聴こえるような気がしたような。 ・ そういえば冬の落葉集め以来、 妖精たちを招待してないな。 「一番好きな果物は葡萄!」と 云っていた妖精たちにも 食べさせてあげようかな? |
激しく媾う神々 玄関 |
白い彼岸花 奥庭 どうしたのだろうか? 今年は未だ里のが咲かない内に 山荘の彼岸花が咲き出した。 考えられる理由は唯1つ。 ・ 滝を造ったので彼岸花周辺の樹木を伐り 草花を刈り採ってしまったから 日当りが良くなったのだ。 其れだけで花期が早まるだなんて驚き。 |
早くも彼岸花が! 9月8日(日)雨 奥庭 里の彼岸花が咲き出してから1週間後に 山荘の彼岸花は少し綻び 2週間後にラッパをすっかり開き満開になる。 |
紅白揃った彼岸花 奥庭 |
無花果奇跡の復活 キッチン |
採り立て果物を朝食に 9月8日(日)雨 すっかり諦めていたのだ。 何しろ黄星髪切によって食い荒らされ 幹は穴だらけ。 甘く柔らかい無花果の樹幹は 黄星髪切にとって正に天国なのだ。 ・ 涸れた樹幹の横に細い枝が僅かに出たものの 今年の収穫は望めないなと 諦めていただけにこの熟した実を見つけた時は 嬉しかったな! |
朝食:秋の山荘味覚 キッチン |
華の様な狐の花笠(キツネノハナガサ) 中庭 暫くして観ると、散るのではなく 花弁が融け始め すっかり茸になってしまったでは。 この華のような容姿は一瞬なのだ。 まさか白蓬莱茸が例え一瞬であっても こんな美しく花開くとは誰ぞ知ろう。 (白鶴茸・シロツルタケかな?) 白蓬莱茸(シロホウライタケ)ではない ・・・遂に判明・・・ 和名:キツネノハナガサ 学名:Leucocoprinus fragilissimus 分類:ハラタケ科>キヌカラカサタケ属 |
幻想の華 9月8日(日)雨 奥庭 まじまじと見つめてしまった。 どう観ても華としか見えないのだが こんな華は観たことがない。 ギャザーを寄せた1枚だけの花弁に走る黄条。 華でないならば一体何者なのだ。 |
狐の花笠(キツネノハナガサ) 中庭 (融けだした白蓬莱茸 ではなかった) |
鹿威と紅く色着いた梅擬(ウメモドキ) 奥庭の滝 この紅い実は野鳥の大好物で《野鳥を呼ぶ庭木》と云われる所以。 落葉後の秋から真冬まで残る鮮やかな色が好まれて 玄関脇、池端、灯篭近くに植えられるんだけどこうやって見ると鹿威にもぴったりだね。 |
無農薬で育った大きな林檎 奥庭 石卓の上の山法師が紅い実を稔らせ ぼったん、ぼったん落ちてきた。 1つ口に含んでみると 甘酸っぱい森の味がジュワーと口に広がった。 ・ 鋭い黒御影石が宇宙を司る《時》そのものにでも なった様子で紅い実に囁く。 「狐の花笠のようにお前達も一瞬にして融けて 土に還ってしまう。どうだその前に 仙人に頼んでジャムにでもしてもらったら?」 |
紅い実を着けた 透明の玉に光を湛えた雨の滴が呟く。 「よくもまあ、害虫や鳥にもやられず 此処まで大きく育ったね!」 ・ そうなんだ、林檎畑の3本の林檎樹も 今年は大きな紅い実をつけてね、 もう嬉しくて用も無いのに 仙人は1日に何度も覗きにくるんだよ。 |
山法師の紅い実 前庭石卓 |
水量を増した激しい滝の流れを浴びる竜 奥庭 9月8日(日)雨 どうだい凄いね、この滝の流れ。 あのちょろちょろの流れが1丁前の滝になってるぜ。 週末の雨と先週の雷雨が遂に山荘のパイプラインに送水を始めたんだ。 先週、激しい雷雨が山荘の電源を遮断し山荘の機能を破壊し水道ポンプも止まってしまったけど この谷の水は貯水槽に繋がっているので断水の心配無し。 |
新たな問題発生 奥庭 |
と安心していたら ギョギョ、山荘の貯水槽に 激しく流入している谷の水が 全く貯水されず貯水槽は空っぽ。 ・ 一体この流入している水は 何処へ消えているのか? オーバーフロー用の排出菅は 槽の上なので排出には関係してないし うーん、解らん! 業者も首を捻るばかり。 さては竜め、仙人を試しているな! ・ ほんじゃ一先ず貯水槽の問題は置いて 買って来たばかりの 新品刈払機で延び放題の畑の雑草でも 刈ることにしようか。 ・ あれ、山荘には2台も刈払機があったのに 又買ったのかい? 実はね2台とも先々週に壊れて 1台は廃棄処分、もう1台は修理中で 修理予定は10月とか。 それまで待ってたら畑は雑草天国に なっちまうから仕方なく買ったのさ。 |
修理待てず新品刈払機購入 奥庭 |
面白くて読み始めたら止まらない。 登場人物のキャラが実に良く書かれていて、誰もが個性的な魅力に富んでいてぐいぐいと引き込まれてしまう。 そこで時間を決めて1回に1時間までとし、この愉しみを暫く堪能することにしたが 本を閉じた途端にもう次が読みたくて、他の作業が手に着かない。 残りが気になって最終ページをみると僅か585ページしかないでは。あーせめて3千ページくらいあればな。 これ程まで夢中にさせられた読書は何年ぶりだろうか? 「永遠の0」、「モンスター」と百田のストーリーテラーとしての作品の面白さには心底脱帽したが「BOX!」はそれらを遙かに凌駕。 さてそれでは「BOX!」に迫ろうでは!
派手な服を着てだらしなく電車の床に座り込んで、煙草を吸いながら騒ぐ金髪少年5人と1人の少女。 24歳の美人女教師・高津耀子に絡む少年達、ブラウスの胸元を掴まれ、耀子は悔しさと恐怖で泣きそうになった。 そこに「お前ら、やかましいんじゃ!」と颯爽と登場する我らがヒーロー、高校1年生の鏑矢義平。 一瞬にして不良少年5人を叩きのめし鏑矢の顔を携帯で撮り凄む少女を平手打ちし、次の駅西九条駅で姿を消した鏑矢。 その後ろから鏑矢を追って慌てて降りる幼馴染の苛められっ子・木樽優紀。 このひ弱な苛められっ子・木樽優紀がもう1人の主役としてリングに躍り出るとは、この段階では想像も出来ないのだが。 ・ まーこのプロローグだけでこりゃ肩凝りが解れそうな痛快な青春小説だなと見当はつく。 さてこのヒーロー、きっと耀子の勤める恵美須高校の生徒なんだろうと読めるが、翌週、その少年との出逢いで そのヒーローがとんでもない奴と判明、これは読めなかったな。 数学の答案用紙に自分の名を鏡文字で書いたり、数学教師の名を書いて0点とったりとここまではいいとして 高校の食堂に訪ねていった耀子が見たものは? 鼻の穴にうどんを突っ込んで「どっちが長いウドンを垂らせるか競争してんねん」 と鏑矢は言った。「先生もやる?」 (闘いの画像は山荘劇場でのスチル)
ここから始まる面白くて面白くて堪んないストーリーが展開されていくのだ。 さてこれ程までに大サービスをして、本離れの若い読者までをも引き込み百田は一体何を「BOX!」で描こうとしたのか? BOXとは《殴り合え闘え》と云う意味である。 殴られて倒れたボクサーは小さな死に遭遇し、時には回復出来ぬ致命的なダメージを精神に負うと云う。 百田は文中で小さな死をこう語る。 ・ 「パンチを受けて倒れるときはね、脳震盪を起こします。本当に一瞬、気が遠くなるんですよ。それは小さな死に似ています」 小さな死、そうかも知れないと思った。もし本当の戦場で戦っている時に、頭を攻撃され気を失うということは「死」を意味する。 ボクシングの試合ではダウンしてもレフェリーに救われる。8カウントの間は身体を休めることが出来る。 しかし脳の奥にある闘争本能は、倒された時に本能的な恐怖を感じているのではないだろうか。 何度も強烈なパンチを受けて、何度も倒されたなら、その恐怖心が染み付くということは十分に有り得ることだろう。 他のスポーツにはそうした恐怖心はないだろう。 ・ 他のスポーツにはない恐怖心と対峙し、成長期に在って食欲の支配を最も強く受け易い若者が 減量のため食欲そのものと闘い、一体若者は何を求めてリングに上がるのか? ゼロ戦の若者の死を描いた「永遠の0」では、若者にゼロ戦搭乗を拒否する自由は無かった。 しかし「BOX!」での若者は敢えて自ら、「小さな死」の恐怖心と対峙し、食欲と闘い苛酷な減量に耐える。 鏑矢だけは持って生まれた天才的運動能力で、恐怖心も食欲との闘いも笑い飛ばし向かうところ敵無しとばかり勝ち進む。 さてこの鏑矢を待ちうけているものは何か?
インターハイ試合前夜、同じ旅館のバスケ部女子の部屋でおにぎりやお菓子をたらふく喰った鏑矢は翌朝の計量で300g体重オーバー。 試合直前の計量までに落とさねばと朝飯抜きで服を着こんで、30分もロープ跳びし、やっとフェザー級(57kg)まで減量。 そのまま試合に臨みスタミナ切れで初めての敗北を喫するのだ。 ここから「BOX!」はいよいよ佳境に入る。 敗北の怖さを充分に知り尽くした完全無敵のライト級稲村が、スパーリングで1階級下のフェザー級の鏑矢にダウンされ(映画では鏑矢が敗北) 苛められっ子だった木樽優紀が地道な努力を重ねめきめきと力を着け、鏑矢とグローブを重ねるまでに至る。 ・ こともあろうかやがて木樽は鏑矢に勝るパンチと技術を養い、インターハイ予選ライト級決勝戦で鏑矢をノックアウトし 主役はいつしか木樽へ。 が、期待の木樽は国体の大阪予選の準決戦で打てど倒れぬモンスター稲村に恐怖を抱き、最終ラウンドで叩き潰されてしまう。 そして決勝戦、最後の鏑矢の執念を込めた稲村との凄まじく壮絶な死闘で、闘いは幕を閉じる。 ・ 「鏑矢は右アッパーで稲村の体を起こすと、残忍な左フックを顎に叩きつけた。稲村の口からマウスピースが飛んだ。 棒立ちになった稲村に、鏑矢は獣のような叫び声を上げながら狂った風車みたいに左右のパンチを打ち込んだ。 稲村はロープに背をもたせかけたまま、鏑木に滅多打ちにされた。稲村のコーナーからタオルが投入されるのと、レフェリーが鏑矢の体を後ろから抱えるのが同時だった。 レフェリーが鏑矢を引き離すと、稲村は糸の切れた操り人形のようにゆっくりと膝からリングに崩れ落ちた。 耀子は声を立てずに泣いていた。自分がなぜ泣いているのかわからなかった。嬉しいのか悲しいのかさえもわからなかった。 涙で視界がぼやけ、リング上で呆然と立ち尽くす鏑矢の姿が幻のように揺らいでいった・・・。
「風が吹きぬけたみたい、と耀子は思った」で第1章を締めくくった百田はエピローグで10年後の耀子を通して鏑矢をこう語る。 「耀子は何と応えようかと思い、ふとリングに目をやった。リングに舞うカブラヤの姿が浮かんだ・・・その時、誰もいないリングに風が吹いたような気がした。 いや、それは耀子の心の中を吹き抜けたのかもしれなかった。 《あの子は・・・》と耀子は言った。《風みたいな子やった》 ・ このエピローグで、そうか百田は青春を吹き抜ける一陣の風を描きたかったのかと妙に納得したのである。 その一陣の壮絶な風が如何に極上で、爽やかな風であったかは言うまでも無い。 |