その87ー2013年如月 |
2月1週・・・ある時は仙人また或る時は屍体処理人
死のオブジェ 背後の森で大きな倒木が 立ち樹にもたれかかり 巨大な弦となって森そのものを セロに仕立てる。 ・ 死して大地に還るまでのひと時を 弦となって 何を詠おうと云うのだろうか? 風が吹く度に 立ち樹が弓となって弦を弾く。 ・ 背骨を剥き出しにした鹿が 死んでしまった倒木の音色に 耳を傾け微かに嗤った。 眼元が緩み漆黒の眼差しが ぎろりと山荘主を捉える。 ・ 「ふふーん、森の死の音色を聴きながら 死そのものでしかない この骸と対峙し 死をオブジェと化すつもりだな。 さてさてそう簡単に 死がオブジェになるものか お手並み拝見といこうじゃないか」 ・ 死にギロリと睨まれた山荘主。 こんなもん森から 運んで一体どうするつもりなのか? |
やっと見つけたぞ! |
森に死んだ鹿 どうも1月6日に出逢った 死した鹿が呼んでいる気がするのだ。 きっとあいつ寂しいに違いない。 そこでひょっこり 森に出かけてみたのです。 |
重いぜ! |
ぐいーん、ぐいーんと 森から響いて来るのは珍しく 樵の木を伐る音。 この里も農業や林業の後継者は 減る一方で 森から木を伐る音が聴こえるなんて 実に久しぶりなのです。 どうやら1月6日に鹿と出逢った 辺りで伐採しているようです。 |
鉈で脚と胴体を切断 |
となると最早鹿は処分されて 逢えないかも知れません。 あれ、木を伐っているのはいつも 巨峰葡萄を分けて貰っている 深沢さんでは。 「やあ、今日は!御精が出ますね。 確かこの辺に鹿の死骸が あったんですが知りませんか?」 「あーそれなら伐採した枝の下に 転がしておいたけど」 |
首に残る胴体皮が切れない |
木の枝に擬した鹿角と 木々と同じ色した鹿の骸を 無数に折り重なった枝の下から 探すのはこりゃ大変! ・ どうにか探し当てて 鉈で脚と胴体をぶった切り 山荘迄えんやこらと運んだものの はてさてこの強靭な 毛皮と骨をどう切断しオブジェにするか? |
ナイフをハンマーで打ち込む |
さてどう切断するか? 晩餐会で芸術家が殺害され、 それがまるでオブジェのようであった。 殺された陰惨な殺人現場が まるで芸術作品のオブジェのようであった という12年前の異常殺人。 「死のオブジェ」ストーリー ・ キャロル・オコンネルの 「死のオブジェ」を思い出し 桐野夏生作「Out」の 浴室での屍体切断の生々しさを 其処かしこに感じながら オブジェ作製に取り掛かる。 ・ 胴体の皮が首まで捲れ上がり カチン、カチンになって 太い背骨に巻きついている。 左足で背骨を押え左手に ドライバーを握り首に突きさし 屍体を固定し右手の 鋸で切断を試みるが全く切れない。 ・ ふと、若しかするとこれは 人間の屍であって おれはとんでもない殺人者なのかも なんぞと不気味な 錯覚に捉われ、手が竦んでしまう。 そう今踏みつけている 太い背骨が人間のものであっても 不思議ではない。 骨の鑑別が出来ない者にとっては 同じ感覚に陥るのだ。 |
強力剪定鋏でどうだ |
ワイアー切断鋏でも切れない |
骨も皮も切れない それじゃ果樹の枝を伐る 半月形の刃をした強力な剪定鋏でと。 あれ、駄目だ。 全く刃が立たない。 ・ よしそれなら長い柄で切断力を高め ワイヤも切ってしまう ワイヤクリッパーでどうだ。 切れるには切れるが 刃先が短くてやたらと時間がかかり とてもじゃないが やってられん。 |
ナイフを当ててハンマーで叩いて 切断を試みたり あれやこれややってみたが 如何に屍体処理が 難しく困難であるかしみじみ実感。 ・ そこで「死のオブジェ」、「Out」だけでなく 屍体処理場面の出て来る 本を思いだしてみると・・・ あったではないか! 確かチェーンソウを使うと簡単に 切断出来るとか。 |
最早為す術無しか? |
若しかしたらチェーンソウで? |
骨と皮に食い込むチェーンソウ 堅くてにっちもさっちもいかなかった皮と骨に チェーンソウを当ててみる。 いったい木を伐るチェーンソウで本当に皮や骨が 切れるもんだろうか? ・ 蛋白質の焦げる様な厭な臭いと白煙を上げながら 切断を強かに拒否していたが 遂に頑強な皮と骨が切れた。 次に電気ドリルで下顎4箇所に穴を開けボルトを通し 支持棒となる鉄パイプに固定すれば完成。 |
最後の手段チェーンソウだ そこで先月も小倉山での伐採で大活躍した あのお馴染みのチェーンソウを 倉庫から引っ張り出し恐る恐るエンジンを掛けてみる。 あの気難しかったエンジンがなんと たった2回の引きで殺人マシーンのような叫び声を上げたでは。 こうなったらもうやるしかない! |
遂に切断に成功 |
チェーンソウの切断面 頑強な骨と皮の切断面を観ると ベーコンのようで美味しそう。 これを森の野生動物達が放っておく筈がない。 しかし此処にこうして残っていると云うことは 如何にこの皮が堅く 野生動物の鋭利な歯をもってしても 噛み切れなかったかを示しているのであろう。 |
高芝山への想いではどうかな? |
もっと高い位置が良いかな? |
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さて何処に置こうか? 欅の木のベンチには数本の鹿の角や猪の牙がオブジェになっているからその端にでも置いたらどうだろうか? うーん、何だかさっぱり存在感が無いな。 周りの樹木背景に角を奪われてしまって折角の立派な3段に分かれた角が目立たない。 そうか、バックを空にすればきっと鹿君も甦って天空を駆けめぐることが出来るかもしれませんね。 ・ そこでアイリスの花壇に2m程の鉄パイプを打ち込んで背骨ごとオブジェにしてみました。 遥かなる高芝山を顎の下に従え広大な甲府盆地を見下ろして こんなもんでどうでしょうか? 暫くこのロケーションで様子を観て後ほど鹿君を始めとして森の皆さんの意見など聞いてみましょう。 |
背骨が何を語るか? |
風呂場からもばっちし |
はて?おかしな物が出来たぞ |
餌台も出来たぜ! 後半の中学生達が いじめ真相究明の為の裁判を 行う辺りから嘘っぽくて こりゃ失敗作だなと思いつつも T、U、V巻と読み終えた 「ソロモンの偽証」 ・ 引き続いて昨年11月に 書き下ろしで出版された「ことり」を 読み始めたが これも小川洋子が下降期に入ったと 思わされる不満の残る作品。 ・ しかし1ページ読み進む毎に 何か責められているような引っ掛かりを 覚え、はたと考えた。 そうだ作ろう作ろうと思っていた 鳥の餌台だ。 「ことり」を愛する小父さんが 「ほらほら、 本なんか読んでいる暇があったら 鳥達に約束していた餌台を 作っておやり」 と言っているような。 |
早速キウイを銜えたヒヨドリ |
鉄皿と鍬の柄を利用して |
最初に来るのは誰かな? |
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餌台完成を高らかに歌う? |
常火焚も興味津々 |
次々やって来るヒヨドリ |
鳥の大好きな向日葵の種から |
鳥の餌も作らにゃ! で、パキスタンの ナンガ・パルバット遠征時の 我が隊の連絡将校である ハビブラー・ムガール(Habibullah Mughal)が 遠征記念に贈呈してくれた 銀の飾り大皿を倉庫から見つけ出し 早速、餌台の作製に着手。 |
こんなに沢山あるぜ! |
金属用のドリルで大皿の中心に 穴を開ける。 次に折れた鍬の木の柄を再利用して 金属皿に負けない年数に 耐えるようにする為防腐剤に柄を浸す。 柄と金属皿を木螺子で固定。 ・ さて餌台が出来たら 鳥の餌も作らねば。 夏に収穫しログに吊るし乾燥させた 向日葵の種が陶房にある筈。 あれ、既に随分食い荒らされていて 種は半分程しか残ってない。 |
太陽を浴びてのんびりと |
犯人は山荘に巣食う白腹や 画眉鳥に違いない。 しょっちゅう陶房に出入りしていたが 狙いはこの向日葵の種であったか! ・ でもとても食べきれぬ程沢山有るので 問題なし。 唐黍も乾燥させておいたので 種を剥いてあげよう。 とても堅くて食べられそうもないけど 向日葵の堅い種を器用に剥いて 食べるのだから きっと唐黍も食べるに違いない。 |
唐黍は堅すぎるかな? |
里では剪定した果樹枝を焚く煙が彼方此方に |
ほら美味そうだろ! |
やべえ!又森の木が倒れたぜ! |
山荘にもっと近ければ・・・ |
襲いかかる森の倒木 森の木が2本倒れた。 大きな赤松はログハウスの在る 東方向へ、小さい赤松は 陶房の屋根上に伸し掛かるように 倒れたが幸い被害は無かった。 だが山荘の母屋に近い 大木が山荘方向に倒れたら 被害は避けられない。 山荘はそんな終焉を望んでいるような 気配すらあるのだ。 |
背後の森で大きな倒木が 立ち樹にもたれかかり 巨大な弦となって森そのものを セロに仕立てる。 ・ そのセロの音色も又 森が造った死のオブジェなら 森は山荘と倒木の アンサンブルも想定しているに違いない。 そのアンサンブルが奏でる 音色を若しかすると 仙人は望んでいるのかも知れないと ふと思うのである。 |
ログまでは未だ遠いけど |
母屋に倒れたら・・・ |
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