仙人日記
 
 その112の22015年  弥生

3月2週

今まさに小倉山から太陽が昇る刹那
3月10日(火)晴 こいつ手強いわね! 西畑

紅いゴアテックスのお腹の部分を観てごらんよ。
何だか白い汚れと黒っぽい汚れが混ざっていて、ホームレスの人達が着ている様なコートみたいだろう。
白いのは石灰、黒いのは鶏糞で、計360kgの有機肥料と格闘した痕跡なんだ。
いつもお洒落で綺麗にしているシェフが、こんなに汚れるまで気づかないなんてあリえない!
如何に重労働の畑仕事に熱中しているか、一目瞭然。

表情を観てごらんよ!
お母さんに禁止されている泥遊びに夢中になって、あー、あー又家に帰ったら叱られると思いつつ
それでも泥んこになって、遊び惚ける少女の笑顔だろう!
その笑顔の背景から立ち昇る太陽の微笑みが、少女の笑顔を荘厳なまでに高め、
夢中になっている少女の心象風景に、鑑賞者を引き込もうと企む。
たった一人の鑑賞者の為に描かれた刹那の絵画を、届けてくれた春の夜明けに感謝せねばなるまい。



芝掘っちゃダメだってば!

勝手に何処へ行くの?
耕耘機との格

平らな畑で使うべき機械で
あることは充分知ってはいるが
そんなこと言ってたら
山荘の傾斜畑は、総て人力で
耕さねばならない。

まー、それも一興だが
そうしたら
歓ぶのは雑草と野生の
狸、鹿、猪達だけで
山荘の畑からは、野菜なんぞ
決して採れないことも確か。
なにしろこの機械、
1リットルのガソリンで百人分の
働きをするのだ。

どうしたってこの平地用の耕耘機を
山荘の傾斜畑で
操作せねば、あの無農薬で
有機肥料で育つ
美味しい極上の野菜は
生み出されないのである。


耕耘機を自在に操る
肝心の仙人は
どうもアキレス腱、肋骨骨折、
だけじゃなくて抜歯までして
痛みのオンパレードだとか!
そこで村上シェフも
耕耘機にチャレンジすることに
なったらしいのだ。
 ・
「もう帰ろうかと思ったわ!」
山荘の過酷な肉体労働には
慣れている筈の
村上シェフが、そんな弱音を
吐くなんて!
よっぽど堪えたんだね!

最初のシェフの表情は
やや緊張ぎみで不安そう。
戸惑ってもいるよう。
でも耕作中のシェフの表情を
観ると、少女のような
微笑みに満ち溢れていて、
とっても嬉しそうに観えるよね。

きっと、やんちゃで暴れん坊の
耕耘機とも直ぐに
お友達になっちゃって、
一緒に春をハミングしてるんだ。

そっち行っちゃ駄目!
 
この急坂は下れないわ!
 
ドジを観てたわね!



【Ⅰ】
 春 耕   新 映子

仏の座は、遠くから見ると濃いピンクの絨毯のように見える花で、果樹畑を彩るととても美しい。
犬ふぐりも、名前とは裏腹に薄紫の可憐な花を付け、群れ咲くさまは大地の早春の呟きを見るようだ。

けれども、山荘の畑にそれらが我が物顔に咲き始めると、残念ながら好きだなどとは言ってられない。
春水と云う便利な道具を手にして、たちまち耕人となる。
まるで怪獣のごとくに可憐な花たちに襲いかかって、根こそぎ大地から引き離し、放り出す。

早春の光の中に生まれ出た花々の気持ちなど、およそ
無視して、蹂躙者として君臨しているのに、耕人となった途端、痛みどころか快感さえ感じてしまうのだ。

土が耕されると、真っ黒な瑞々し春の畑の誕生だ。
真冬の寒さを生き延びた青菜が、黒い土を背景に鮮やかな黄緑のラインを描く。

陽射しを浴びて、再び新鮮な葉を伸ばし始めた青菜たちは、その中心にふっくらとした花芽を宿している。
気の早いのは、菜の花として黄色い花びらを開き始めている。


春は曙、耕作始まる
3月10日(火)晴 お手本運転はこれじゃ!西畑

アキレス腱と肋骨骨折で、山登りもトレーニングも満足に出来ず、
汗をかく素晴らしさを忘れていたが、昨日はびっしり汗をかいた。
満身創痍の身で、無謀にも西、葡萄、中畑の雑草取りと施肥、耕作を一気にやった。

くたくたになって、風呂に入るのもよろよろ。
その代わり、ここ数カ月味わったことのない程のビアの美味さに歓喜。
改めてビアが労働と汗の対価であると実感!


どうして勝手に曲がるの!

あれれ動かない!
ピンチヒッターさん

アキレス腱痛、肋骨骨折、
抜歯に加え扁桃腺が腫れ始め、
慌てて葛根湯、パブロンを服用。
ここ2年以上風邪を
ひいていないので、今度こそ
逃れられまいと諦めていたが、
昨日の重労働で
汗と共に風邪は去りぬ。

あんまり働きすぎて
昨夜は8時にベッドに
倒れ込むようにして眠り、
目が覚めたのは今朝5時。
9時間も寝たことになる。

そこで調子に乗って
林檎畑に出向き、
伐採による倒木で
ひん曲がった柵ポールを撤去し、
防獣網を直し、草取り、施肥、耕作を
一気に成し遂げたのだ。
勿論全身流れる汗でびっしょり。
 朝から
これだけの重労働に勤しむと、
冷たいビアの欲しいところだが、
それではアル中になってしまう。

ぐっと堪えて、
焼き立てパンと、トワイニングの
アールグレイ、八ヶ岳牛乳、山荘産干柿、
キウイ等のフルーツ&ヨーグルトで
朝食を愉しむ。

ベルガモットの香りのグレイ伯爵は、
きつい労働後にはぴったりで、
これと、柔らかなチーズ、
カマンベールを
載せた干し柿とはよく合う。

こんな風に
激しい肉体労働後のひと時を、
山荘産の
美味しい食材を味わいながら
過ごせるなんて、最高の贅沢!
さあ、いよいよ春本番で
これから益々忙しくなるぞ。

方向転換出来ないわ!
 
アクセルが効かない!
 
柵にぶつかっちゃう!


【Ⅱ】
 春の種まきの準備

花が開く前のまだ硬い蕾の部分を摘んで、さっと茹でるか、オリーブオイルで炒めると、
輝くようなグリーンの春一番のご馳走が出来上がる。

今冬の畑の青菜たちは、何故だか白菜も小松菜も青梗菜も区別が出来ないミックス青菜として登場。
初めは巻かない白菜にがっかりしたのだが、これが食してみると何とも美味しいのだ。
白菜よりも濃い味で、小松菜よりも柔らかく、お浸しにしても煮込みにしてもとにかく美味しい。

雑草抜きを終えた畑は、春の種まきの準備が必要だ。石灰を施し、鶏糞をたっぷり撒く。
これがまず第一段階の作業。石灰袋は20キロもあり、とても持ち運べないから、バケツに移して柄杓で撒く。
傾斜地の畑だけに、何度も上り下りを繰り返し、バケツの石灰を撒く作業は、それなりに大変なのだ。
おまけに、風向きを考えずに撒こうものなら、全身粉塗れになってしまうし、呼吸困難にさえなりかねない。

鶏糞の方は一袋が15キロ、これも半分くらいまではバケツに移して運び、
残りは袋ごと引きずってたっぷり撒いてやる。あっという間に一袋が無くなる。次々に袋を開けては撒く。

この作業が終わった場所から、耕耘機が掛けられる。
すると湿り気を帯びた黒い土と、今撒いた石灰、鶏糞が見事に撹拌され、瞬時に耕されるのだ。

西畑、葡萄畑、中畑をすべて遣り終える頃には、もう頭も体もふらふらで汗まみれ。
ふらふらよたよたしながらも、この広い畑を全て(リンゴ畑がまだ残ってるものの)耕し終えたかと思うと、
言い難い達成感が湧き起こるから面白い。もっとも耕耘機を掛けて耕したのは仙人なのだが・・・




越冬した野菜が嬉しそう!
3月10日(火)晴 やっと云うこときいてくれるわ 西畑

冬野菜の緑がスキップして大地の五線譜に載って、歌っているように、踊っているように観えないかい!
で、さ、少女の笑顔からすると、どう観たってあれは緑の命と一緒になって歌っているぜ!
心の奥底から湧き出て、全身に溢れ出て来るような笑みは、
大人が疾うに失ってしまって、もう二度と手に入れることが出来ない輝きに満ちているね!

あー若しかすると、この赤い機械は操作する人の心象風景を読むことが出来て、
時にはタイムマシーンにもなるのだろうか?
であるなら、シェフは本当に数十年の時を超えて、いま少女になってるんだ!
山荘へようこそ!あたらしのえいこさん!



ローターに絡む土を除去せねば

土の中には草の根っこや
蔓草の長くて中々切れない丈夫な茎も混じっていて、
そう簡単に土は取れません。
移植鏝や槍のように尖った芝の雑草抜き具を使って
やんちゃな暴れん坊と、お話ししながら
新しのえいこさんは
優しく根気よく土を取ってあげました。

やがて暴れん坊の赤いコートと、
えいこさんの紅い上着は1つになって再び、
黒い春の大地を、風のように奔放に駆け巡りました。
新しのえいこさん、何してるの?

「この云う事きかない暴れん坊が、いっぱい土を
抱え込んで、重くなりすぎて
もう動けなくなりそうなの。
可哀想だから、土を取ってやって又
畑を元気よく走れるようにしてやってるの!」
 
草の根や茎が巻き付き取れない


【Ⅲ】
 夜明けの耕耘機

まだ太陽が昇る前の、大気がきりりと引き締まった早春の明け方。
季節が、確実に春へと移行していることを実感できる空気の味わい。
新鮮な土の匂いが起ち上り、大地の奥で生命の律動が始まる気配が伝わる。

こんな瞬間に大地に立てる歓びが全身を包む。
この空気感は、チベットの山懐で迎える朝の空気感とどこか似ているのだ。

まだ凍った水に手を浸し、冷たい水で顔を洗うあの瞬間の爽快さを想い出す。
空が水色に広がり、やがて光が満ちてくる。自分の中の生命力が目覚めるのを実感するとき。

何か、言い難い力が自然から手渡される瞬間、そんな時間が確かにチベットではあった。
山荘の畑に立って、小倉山の稜線から太陽が昇るその瞬間は、
まさに自然のエネルギーを真っすぐに受け止められる瞬間でもある。

雨上がりの早春の大気は、チベットの夏の朝の空気と似ているような気がする。



春霞に霞んでいた富士が一瞬姿を現す。
駆け巡った背景の山々に囲まれての耕耘は最高!
≪やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる≫

紫だちたる雲の細くたなびきたる上に、春霞を突き破って突如現れ出でた雪富士。
耕耘機の心地よいハミングに耳を傾けながら、雪富士に目を凝らす。
あの雪と氷に覆われた急峻な斜面にステップを刻みながら、高みを目指す影が観えはしないだろうか?
それともヒマラヤのトレーニングとして通い続けた、数十回に及ぶ雪富士に記した影は、
跡形もなく消え去ってしまったのだろうか?

耕作する仙人の背を射抜くようにして、雪富士が語り掛ける。
「そーら、あたしに背を向けているにも拘わらず、あたしがくっきりと鮮やかに観えるだろう。
あたしの肉体に刻まれたステップは、一陣の風雪によって瞬時に掻き消されてしまうけど、
その記憶は視覚と云う認識を超えて、永劫に心象風景に刻まれるんだよ。
例え視力を失って永劫の闇に閉ざされようが、そのステップは背でさえ認識出来るのさ。
お前さんは確かに、あたしの肉体にしっかり刻まれているんだよ」



春を告げる山茱萸

大地からずんずん水仙
仙人考

水仙は、どうも俗界を離れた
静かで清浄な水に棲む
仙人らしいのだ
因みに仙人は棲む場所等によって
呼び名が異なる。

鬼仙......
仙人修行中の者が焦って、
間違った道を行ってしまうとこうなる。
人仙......
大道を悟る事なく、
一法を得て、一術を得た者。
病気になる事はないという程度。
地仙.....
.地上に留まって長生きができる。
神仙......
俗世に住む事を嫌い、三山に住む。
天仙......
三山に住む事を嫌い、
三十六洞天に住む。
尸解仙  シカイセン
仙人ランクで一番下。
自分の身体を一旦死体にしてから、
仙人になった者の事。
因みに、尸(シ)とは遺体の事。

三山
とは四川省に実在する山。
道教、仏教の聖地。中国三大霊山
(峨眉山、五台山、天台山)
三十六洞天とは道教において仙人が住む地。
一番上が大羅天(ダイラテン)。
その下が三清天。その下が
上四天(四種民天(シシュミンテン)or
四梵天(シボンテン))、
ここまで小計8。更に下が無色界(4)、
色界(18)、欲界(6)、合計36。
【道教用語辞典より】


まー大まかに云うと
天にあるを天仙、
地にあるを地仙、水にあるを水仙
と言うらしい。
ははーん、それで山荘には
彼方此方に水仙が
咲き誇り、山荘こそ仙境なりと
テリトリーを宣言してるんだな。

そんでもって天空への旅立ちを
夢見て、大地を意味もなく
逍遥し、時には耕し地仙となって
山荘にウロウロしてるのが
見習い仙人の山荘主と云う訳か!

ところでこの見習い仙人は
何を目指して見習っているのか?
しょっちゅう病気になってるから
人仙には失格だし
地仙らしき振る舞いは見せているが
本人は長生きなんぞ
希望してないので地仙には
これまた不適格。

となると修行中の者が焦って、
間違った道を行く鬼仙
あたりかな?

枯葉の下からクレソンだって!

寒さに耐え抜いた大蕪

菜の花も咲き出したぜ!




【Ⅳ】
 春の大地の瑞々しい匂い

昨夜の雨でぬかるんでいる西畑で、耕耘機を掛ける。
この作業は一筋縄ではいかない。

耕耘機はものすごい威力を発揮してくれるのだが、それには制御できる力を持たなければならない。
私のへっぴり腰では、なかなか思うに任せぬ手強い相手なのだ。

傾斜のある畑では、コントロールがしっかりできないと、勝手な方向に持っていかれてしまう。

水分をたっぷり含んだ土は、あっという間に深く削れてしまう。
歯が潜るとなかなか引きずりだせなくなって、どんどん土が削れて悪循環に陥る。

耕耘機はお手の物の仙人は、笑って指図するが、私としてはかなり死に物狂いに近いのだ。
格闘しながらも、春の大地の瑞々しい匂いに心が弾む。

♪どこかで春が生まれてる♪
♪どこかで芽の出る音がする♪




まだまだいてる山茶花!

ドライフラワーのと蔓梅擬



枯葉に覆われた池

枯葉の下からチューリップ
枯葉めもしなくちゃ!

凄いね!池が枯葉ですっかり
覆われて、僅かに池の水路が
見分けられる程度。
でもこの枯葉は暖かな毛布。

枯葉の下では
チューリップが大地を突き破って
出て来たし、
クレソンも零下9℃の寒さに耐え
冬中、清冽な香りを
食卓に届けてくれたんだよ。

で、久々に枯葉プールを覗いたら
ほら、やっぱし、枯葉に
包まれて甲虫の幼虫が
ぬくぬく大きく育っているでは!

枯葉プールの横に
何やらボックスが置いてあるけど
気になるって?
あれはね、あんまり沢山の
甲虫の幼虫が
プールから出て来るので保護の為
入れておいたんだ。

来週はこの枯葉プールに
どっさり枯葉を積むので、幼虫が
脱皮しても枯葉が深すぎて
出られなくなるかもと思ってね。

枯葉に眠る甲虫の幼虫

甲虫の生まれる枯葉プール



【Ⅴ】 大地を耕すって、春を創り出すこと

そうだ、たしかに今、春が生まれている。
大地を耕すって、春を創り出すことなんだ。
春耕とは、固くなった心を耕す行為でもあるのかもしれないな。
なんて思ったせいか、体の深いところからコロコロと笑いだしたいような嬉しさが、こぼれ出してきた。
泥まみれの春耕に、こんなに愉快になれるなんて、ちゃんと心も耕すことが出来た証拠だと思いたい。

さあ、今日も元気で働こう!




今日はぴったり決まった出し

 
さてどんなになるかな?



たたら作りから

皿用と高台用の型紙を用意
作陶・三角小

東急ハンズで手に入れた
発泡スチロールの半球で、
早速三角皿を6枚作ってみた。
予想外の上出来で
これからの工夫が愉しみ。

正三角形の型紙を2つ作り、
タオル、粘土カッターを使って
用意しておいたタタラを
1辺17cmの正三角形に切断。
これを半球に載せ型取り。

この後半乾きになった状態で
高台となる小さな
脚を接着させれば出来上がり。
実に簡単で
轆轤のような特別な技術を
必要としないので
子供にも出来るのではと期待。
誕生日祝いとかに贈るには
名前を入れたい。
フリーハンドなら容易に刻めるが
その皿に合わせた
型紙を作るとなるとちょっと大変。

PCで文字を作り
その型紙を半乾きの作品に張り
粘土針で点描する。
その後、小さな箆で文字を掘る。
皿の作陶より遥かに
繊細な作業でこれは子供には無理。

さて次に釉掛けと本焼き。
問題は長く伸びた頂点付近が
1250℃に耐えきれず、
へたる恐れあり。
もしそうなったら、次回は
もっと厚手にするとか、
ツクで支えるとか工夫せねば。

外は冷たい雨で寒々としているが、
轆轤室は小さなストーブ1台でも
汗が出るほど暖かく快適。
唯、土をいじっているだけで、
とても心が落ち着き、
作陶の悦びに満たされる。

粘土カッターで切断

タオルの布目を表にする

高台の位置を正確に



鍵盤上の菜の花
白菜も青梗菜も小松菜も
春を謳う

花芽の菜は最高の食材

 
食卓上の箸置花器にも春の訪れ



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