1661ー2019年  長月

突然の出現に仙人の顔は引き攣る
8月24日(土)晴 扇山頂下の西ルート

山頂直下の稜線から山荘へ下る西ルート手前の稜線上で、確かに笛を吹いた。
人が居るぞと云う警告を示す長い吹奏を3回、続けて短く鋭い攻撃を意図した吹奏を3度行い、
熊が稜線上に居ても、山荘側の山腹に潜んでいても笛の音は届いた筈。
山腹を東へトラバースする西ルートを100m程下ると、ガッサッと音がしたので振り仰ぐと大岩の横に黒茶な塊。
見慣れている鹿や猪とは異なる黒茶塊の眼と一瞬視線が合う。3秒程だったろうか?

襲われると思った瞬間、左上方2mまで接近し熊はそのまま福生里沢へと走り抜けて行った。
慌てて大声で叫び笛を吹き鳴らしたが、再び現れることは無かった。
桃や葡萄の収穫期なので、狙いは里の果樹園にあることはいうまでもない。
さも人間などお呼びじゃないと一瞥しただけで、去っては行ったが、いつまた現れるかとビクビクしながら山荘へ戻る。
早速果樹園で作業している坂本さんに、熊出現情報を伝えると、
坂下さんもやって来て果樹園にラジオを吊るし、鳴りっぱなしにしたり、作業衣を案山子のように立てたりと熊対策。

そんなことがあったので暫く山に入るのは止めようかと思ったが、このトラウマを引きずったままでは
今後いつになったら、山に登れるようになるか不安なので思い切って鉄塔山林道へ向かう。

どうじゃ、参ったか!仙人の白昼夢
9月2日(月)曇 扇山・山荘水源森の熊檻にて

おっかなびっくり、笛を吹き鳴らしながら熊の潜む扇山へ!
出会い後11日を経て未だ熊のトラウマは払拭できないが、
このままでは更にトラウマに捉われたまま、扇山でのトレーニングは難しくなる。
意を決して先ずは熊の罠檻のある森へ出向き、罠を観察する。
檻の奥に大好物の桃を入れての仕掛けは施さず、檻の入り口は閉じたまま。
山荘近くの森にはこれと同じ熊檻が3か所に仕掛けられているが、最近はいづれも放置されたままで機能していない。
熊檻の写真を撮ってから扇山と滑沢山を結ぶ稜線に出る。

この稜線は熊の通り道となっていて、出合頭に襲われる可能性が高いので、笛の吹鳴は欠かせない。
霧が出て森は一層薄暗くなり、いつ熊が出現してもおかしくない怪しい雰囲気となり緊張。
頂上から降り、熊と遭遇した大岩下部に出て、大岩を見上げると
如何にも熊の好みそうな岩場となっており、冬ごもり用の熊穴が在りそうな気配すらある。
そういえば前々回、熊に襲われたのは此処から直線距離で300m程下ったところ。
やはりこの大岩を中心とした熊のテリトリーがあるのかも!





月の輪熊にわれる

秋田県鹿角市にて2016年5月、6月にかけて
タケノコ採りに訪れた入山者4人が
相次いでツキノワグマに殺害された。
いずれの遺体も熊とみられる動物からの
引っ掻かれ痕や噛まれた痕があり、
身元も確認できないほど損傷した遺体もあったという。

狭い範囲で起きた事件により
同一の個体または集団によるものと判断したそうです。
その後、地元猟友会が射殺した
ツキノワグマの体内からタケノコと一緒に
人体の一部が見つかった。
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仙人危うし!扇山に月の輪熊出現
8月24日(土)晴 小倉山を背景に天鵞絨・毛蕊花(ビロードモウズイカ)と共に

この≪天鵞絨・毛蕊花≫に辿り着くまでに、一体何年かかったのだろうか!
天鵞絨のような毛房が長くてふかふかで光沢に富む葉のロゼット。
そして何よりも2mにも及ぶ花茎の見事さ。
2年目の花は分岐せず、すっくと立ち上がり花茎の先端に次々と花を咲かせ、
辺りを睥睨する凛々しさ。お前の名前を教えておくれ! 

こんなに目立つのだから調べれば直ぐ解ると、高を括っていたが解らん!
山荘にある数冊の植物図鑑を調べ、ネットサーフィンしまくったが不明。
≪2mには届かないが、俺だって中々大きくて立派だろう!≫
とのっそり月の輪熊が現れ、独り言ちなければ、仙人は今年もこのあたしの名前を
真剣に調べはしなかったに違ないと≪天鵞絨・毛蕊花≫は宣うのです。


2年目の花弁に合着した5本の雄蕊 

型の毛状突起
天鵞絨毛蕊
びろーど・もうずいか

帰化植物の同定は
難儀である場合が多い。
天鵞絨毛蕊花(ビロード・モウゼンカ)
帰化植物であると
何故気づかなかったのか!

姿かたちは明らかに異国情緒
たっぷりで、2mもの花茎は
南米のサボテンの花を連想させる。
初めて見た時は
葉、茎、花弁のみならず
雄蕊までに毛が生えている姿に、
ブータンで観た温室を備えた
ノビレ・ダイオウの仲間なのではと
確信したのに、
何故帰化植物と思わなかったのか?

帰化植物として調べれば
直ぐに同定出来たのに残念!
原産地は北アフリカ、ヨーロッパ、アジアで
日本、米国、オーストラリアに
帰化していると云うから、ほぼ世界中に
テリトリーを拡大していることとなる。

土壌シードバンクに種子を眠らせ、
大地が光に満ちれば
いつでも発芽出来るので、
毛蕊花は長い時間を生き延びる。
ここで新たに仙人の無知を
曝け出さねばならぬが、
実はこの天鵞絨毛蕊花、
2年生だと云うのだ。

 
1年草と多年草しか知らなかった
仙人は驚いて、
これ何かの間違いではと急ぎ調べて
うーん、と唸ってしまった。

2年草は非常に少なく、
厳しい気象条件下では3~4か月で
生活環を閉じ、
1年草として終わってしまうとか。
葉や根を食べる野菜では
2年草であっても
1年目に収穫する場合は、
2年草と気づかれない。

例えばレタス、パセリ、人参は
1年目に収穫するが2年草である。
そういえば確かに人参は
冬越しした後に
白い花を咲かせていたし、
レタス、パセリも冬越しし、
翌春に結実していた。

無知とは実に哀しい。
こんなことも知らずに、
この2年草の野菜達を育てていたのだ。
で肝心の天鵞絨毛蕊花だが、
こいつ1年目はロゼッタを成し、
長さ50cmにもなる大きな葉を着け、
全身を覆う毛で葉を着けたまま
越冬し2年目に
2mを超える花茎を伸ばし
見事な花を咲かせるのである。 
 
毛状突起を纏った1年目の葉
 
葉、茎、花総て神経細胞の様な毛で覆われている

雄蕊に毛が着いているので毛蕊(モウズイ)の名 


初秋の絶頂をでるミンミン蝉
 前庭で焦るミンミン蝉 ≪ヤバイもう秋だぜ!≫

蝉は凄いぜ!成虫になってからは樹液を吸うだけで、唯ひたすらに雄は啼き続け交尾を繰り返し、雌は卵巣を育むのだ。
餌らしきものは食べないので内蔵なんぞ不要だと、身体の3分の2を交尾目的の器官にしちまったんだ。
ミンミン蝉は一生の内36分の35、つまり大部分を地中で過ごし、交尾の為だけに蝉となって地上に現れる。
幼虫の肉体を交尾器官に改造し、蝉は生殖活動だけに専念する。
蝉は生殖そのものなんだ。



3~17年も地下生活を過ごし
不完全変態をして、
やっと成虫の蝉になっても
蝉としての生存期間は僅か1カ月。



蝉の内蔵は3分の1

ミンミン蝉の幼虫期間は
2~4年間なので、
3年として計算すると36カ月となり
交尾を目的とする地上生活は
人生じゃなくて蝉生の36分の1程度。





体の緑が濃いだろ!

甲府盆地は暑いんでな

人間の平均寿命を
80年とすると、その36分の1は
2.6年、つまり2年半となる。

人間の交尾可能期間を
15~75歳とすると60年間となり、


ミンミン蝉交尾期間は
人間の24分の1程度でしかない!

この超短交尾期に合わせて蝉は
肉体の3分の2を交尾と
生殖に充てた器官に改造したのだ。


黒の少ない帝ミンミンが居るんじゃ!


これ程までに精巧なビオロンだとは!
 ミンミン蝉は絶頂を謳う森のビオロン!

お前はビオロンだったのか!
発音膜に指を触れて、指先から心象の森に戦ぐ風を流すと、風はリズムとメロディー、ハーモニーとなって発音筋を震わす。
発音筋は1秒間に2万回も振動して命の絶頂を謳い、共鳴室がスピーカーとなって
森そのものを生命の歓びで満たす。

北米東部の発生周期17年の
素数蝉はどうなるんじゃ!

そりゃ蝉の寿命は17年×12
=294カ月となって、
成虫となっての生殖期間は
1カ月だから、
生存期間の294分の1となる。

人生80年の人間に換算すると
80年×12÷294≒3.27ヶ月。

蝉の発音筋
つまり人間なら
結婚して3ヶ月ちょっとで
生殖期間は終わり
死んでしまうのだ。
となると蝉は時間を凝縮して
294倍もの濃厚な
性を謳い上げるに違いない。

その為にお前は内蔵を追いやり、
発音筋で肉体を満たし、
今日も森に
生命の歓びを放つのだな!



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