153の4ページー2018年 葉月
通れないぜ! |
通せんぼする 高砂百合 ≪扇山がヒマラヤになった!≫ 歓ぶべきか否か! 大した重労働でもない畑仕事を終えて、 さてご褒美の 扇山にでも出かけようかと 北の森を登り始めた途端、 足が重くて一歩一歩を 踏み出す意志の力を掻き立てる ことが出来ない。 ご褒美どころか地獄の責め苦 でもあるかの如く、足が重い。 |
≪まー、そう嘆くな。 希薄な酸素に喘ぎながらの 高所キャンプへの荷揚げを想えば、 こんなもん屁の河童じゃ!≫ なんぞとブツブツ独り言ちながら、 更にもう一歩と扇山の頂を目指す。 猛暑日には、涼しい森の 散歩を兼ねた扇山登山は最高の贅沢と、 森に差し込む昼下がりの 気怠い光に オードリー・ヘプバーンやゲイリークーパー を見つけたり、 蜩からミンミン蝉へとバトンタッチされた コーラスを堪能したり。 |
このまま突っ走るか! |
駐車場前を遮る百合 |
うーん、綺麗ではあるが! |
ところが重くて 足が上がらないとなると、意識は 唯々如何に次の一歩を 先に出すかに集中され、 昼下がりの木漏れ日も 懐かしの映画シーンも、真夏の シンフォニーも何処へやら! |
どうにか北の森を下り 山荘の水源森を 超えて稜線に出ると、 牧丘の上空から ひんやりした風が 全身を包み滴る汗を拭う。 |
さて、どうするか! |
折れたらご免! |
吸い込まれる妖艶さ! |
嬉しいな、此処まで登れば あとは稜線伝いに 山巓を目指すだけと、 小さな扇山のてっぺんに向かう。 山荘水源の 滝川を見下ろす扇峠に下り、 山荘尾根の頂をゆっくり登りつめる。 つい最近まで 風の様に駆けのぼった稜線が、 実に重々しい深みを讃えて 仙人に語り掛ける。 ≪どうだい、扇山も なかなかいいもんだろ! ヒマラヤの未踏峰も扇山も同じさ。 |
山荘の彼方此方で勝手に咲く強い百合 |
登るという行為は、 今此処にこうして逃れられない 重力の安定にどっぷり 浸かっている自らを、 重力に逆らって高みへ 引き上げることさ。 だから究極的には、登る対象は 扇山でもヒマラヤでも 変わりは無いのさ≫ 老いが齎してくれた 扇山のヒマラヤ化、 そうか、お前はヒマラヤだったのか! |
夏の終りを告げる台湾固有種の帰化植物! |
なんじゃこりゃ! |
甘く熟した唐黍が無残に |
襲撃!烏軍団め くそー、烏にやられた。 発芽率が低く何度も何度も ポット播種を繰り返す。 地植えしてからも弱く繊細で育たず。 やっと花を咲かせたと思ったら 台風に襲われ総て倒される。 負けて堪るかと1本1本支柱を立ててる 最中にぎっくり腰。 どうにか腰も動かせるようになり、 「さあいよいよ収穫だ!」と勇んで 唐黍畑に行って唖然! 無残に食い荒らされ、 芯だけになった唐黍が散乱。 烏の仕業であることは一目瞭然。 |
4か月にわたる汗水が たった1日でパーになってしまったのだ。 そういえば昨年はネットを張り巡らせ、 烏害を未然に防止したのだが 今年はすっかり忘れてしまった。 きっと烏の母は春に産んだ 子供を引き連れ、 ほら此処のトンモコロシは 格別美味しいだろう、 よーく覚えておいて来年も食べにおいで! なんて言ってるのだ。 烏の方が仙人より記憶がいいなんて 実に悔しいが、 くれてやったと思うことにしよう。 ≪権兵衛が種撒きゃ烏がほじくる≫ なんて歌を幼いころ歌ったが、 まさか老いて自ら権兵衛になるとは! |
怒りより哀しみ! |
烏め許せんぞ! |
せめて西畑の唐黍だけはと防鳥ネットを! 8月18日(土)晴 西畑、林檎畑に防鳥ネットを張る |
夏の暑さ最高潮の8月の中旬だと云うのに北海道大雪山系の黒岳では昨日初雪が降った! 5日前の山荘下の盆地では、最高気温が35℃で最低気温が26℃なのに今朝の山荘では11℃、寒いのだ。 5日間で15℃も一気に下がるなんてあり得ない。 連日の強烈な熱気の中から突如現れた寒気。寒気は山々を雪で覆った。 「民主主義が独裁的な政治権力をうみだしてしまうというパラドックス」が異常天候と重なる。 寒くてヤッケを着て畑仕事をしながら、藤原帰一の文芸・批評「時事小言」で述べられた イリベラル・デモクラシーと異常天候の何処に仙人は相関を見出したのか! あれやこれやと専制民主主義に想いを巡らせる仙人。 |
奥庭の蔦、移植成功 |
鉢で根付かせれば簡単! |
目から鱗! 23年間も悩んでいた問題が いとも簡単に解決! 浴室に生命が息づいていると タイルだけの無機空間が 相貌を変える。 ただ静かに存在するだけの 植物の命が 此処は確かに虚空では無いと 語り掛けて来る。 |
特に蔦は垂れ下がった風情が 気に入って 浴室を飾る常連客に迎えている。 蔦は奥庭にワサワサ 生えているので適当に抜いて 鉢植えすればいい。 ところがこのやたらと強い蔦を 挿し木にしても根付かない。 仕方なく市販されてる 鉢植え蔦を浴室に置いていたが、 これがひ弱で枯死し易い。 その都度買い替えていたが、 遂に山荘蔦を鉢に 根付かせる方法を見つけたのだ。 鉢に土を入れ 庭の延びた蔦の一部を鉢の 土に突っ込んでおくだけ。 1カ月もすれば根付くので 蔦を切って 鉢ごと浴室に持って来ればOK. 正に目から鱗であった。 |
タイルや金属の窓枠は 絶対零度に近い真空の虚空間に あっても存在し続ける。 植物の存在は人間が共に生きられる 空間であると寡黙に語る。 だもんだから浴室に 植物を絶やすことは無い。 最近は手間暇の掛からない 観葉植物が浴室壁を棲家としている。 |
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織鶴蘭も移動 |
無垢の海馬体になった白百合 |
海馬体からの伝言 ≪お前は不要である≫ その声は記憶から聴こえて来る。 直近の記憶を 留めず、遠い記憶だけを 鮮やかに 浮かび上がらせる.大脳皮質。 その記憶倉庫の 深奥から響いて来るのだ。 最新の情報は 捕食者にとって欠かすことの 出来ない武器であり、 生命を維持するには 不可欠なアイテムである。 捕食者は過去の記憶によって 餌の在り処を巡り、 最新の情報によって 餌を見出し捉える。 |
雨宮さんがやって来て |
巨峰食べませんか! |
植物の維管束も水分、 太陽光、大気温などの最新情報によって 活動を調整する。 直近の記憶がすぐさま消えてしまうと 捕食は困難になり、 維管束は適切な働きに支障を来し 植物は枯死してしまう。 |
なんぞと当たり前のことを 今この瞬間、 初めて気づいたかのように驚いたり するのだから仙人は 能天気だと云われるのだ。 仙人は何度もなんども ≪お前は不要である≫と 海馬体からも大脳皮質からも 言われ続けていることなんぞ、 からっきし覚えてない。 不要であると宣告されたことを 記憶に留めないと云うことは、 不要であることを忘れてしまうのだから、 仙人は半永久的に 意識上では生きられることになる。 |
となると直近の記憶が 消えると云うことは生命の危機である。 消失は直近の記憶をメモし 選別し大脳皮質へ送る海馬体からの ≪お前は不要である≫との メッセージなのでは! |
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天の恵みじゃ! |
仙人の作る 無農薬有機栽培の野菜ファンが 「この美味しい野菜も 仙人が元気な内しか 食べられないんですね!」 と云ったとか云わないとか! それを聞いた仙人は 独り言ちた。 「そうか、まんざら 不要でもないのか!」 さあ、大変だ! 仙人め、その気になって 意識上だけでなく未だ未だ 現人として生きるつもりなのか! 対社会の不要と 大脳皮質の発する不要を 敢えて混同し、 いやすり替えてまで 生きようとする仙人。 付き合いきれないぜや! |
どう、今度は空っぽな大脳皮質になったのよ! |