その149の32018年  卯月


動脈を疾走する赤血球の陰謀
4月10日(火)晴 

この上なく美しく咲き誇りながら、誰にも観られずひっそりと佇む赤紫の花弁が呼ぶ。
幽し雌蕊の匂いが春風に乗って東の森から流れて来る。
バイクに乗って春風に向かって東の森に突き進む。最初に迎えてくれたのは花簪の大きな樹。

上条谷を渡る手前にこんな大きな花簪があっただなんて、24年間も通い続けたのに知らなかった。
つまり花簪が咲き乱れるこの時期に、上条の森を訪れたことが無かったということなのだ。
春の訪れを告げる花の1つとして花簪を忘れる訳にはいかない。


やっと逢えた花簪

生き残っていた片栗
彼方此方で見かけ、
つい2、3年前までは小倉山の入り口にも
咲いていた花簪も、
姿を消してしまった。

山々を駆け巡りながら何処かに
咲いてはいまいかと探し続けていたが、
とんと見当たらない。

それが思いもかけず突然目の前に
立ちはだかるように現れたのだから、
嬉しいたら驚くやら!
谷を渡ると次に現れたのは、
山荘近辺の森では幻となりつつある
カタクリの群生。

上条の西森は嘗てカタクリの森と呼ばれ、
それは見事な群生が
観られたのだがメガソーラー建設で、


三つ葉躑躅の花芯

森は三つ葉躑躅に満たされ



頂を取り囲む三つ葉躑躅

なんぞと呼びかけながら森に入り、3度目の驚き。
見慣れたあの上条の森とは
全く異なる感性が森全体に漲り、
ヒタヒタと打ち寄せてくるのだ。

底抜けに明るい冬の照葉樹林の森が一斉に、
それはそれは小さな薄緑の芽を発し、
冬の沈黙を一気に蹴破りさざめく。
さざめきは森に満ち、森全体が60兆個の細胞として機能し、
人としての感性を成しているでは!
森はすっかり伐り払われ黒い不気味なパネルに
覆い尽くされてしまった。
以来、小倉山からも上条山からも
カタクリは姿を消してしまったのだ。

そのカタクリが十数株も昼下がりの陽射しを浴び、
しょんぼり泣きそうな顔して咲いているでは!
きっと乱開発された森の生き残りなのだろう。
この地で、もっともっと仲間を増やして、
新たなカタクリの森になっておくれ!

 
稜線を飾る三つ葉躑躅(上条山)


芽吹く山荘と眼下の源郷
4月13日(金)晴 2階テラスから

感性の扉にそっと指を滑り込ませ、指の内側で感性をなぞってみる。
生命の樹液が迸り差し入れた指を解かす。
指が第3の眼を得たように視覚を意識し、生命の樹液にベトベト熔解されつつ上条の森へ突き進む。
第3の眼が目にした上条山稜線の三つ葉躑躅群落が、如何に幻想的な美しさに満ちていたか、
とても仙人の筆力では表し得ない。




森の芽吹き

生命が迸る
さざめく森

咽返る命の飛沫に臓腑を抉られ、
暫く車窓に釘付けになってしまった。
決して動くことの無かった
山並みがウルウルと盛り上がり
波打ち流れ、
実にダイナミックに春の大気を
駆け巡るのだ。
読書中の「90歳何がめでたい」、
「神々の乱心」を放り出し、
山並みの多様な命のグラデーションに
ただ唯ポカーンと見とれた。


先週は緑の芽が小さすぎて
眠りから覚めようかどうしようか
戸惑っているような。
≪うーん、ちょっと未だ早いかな、
もう少し寝ているか!≫
てな声が聴こえてきそうな。

さざめく森

感性の扉をなぞる

杏、山茱萸、三つ葉躑躅が山荘を
4月13日(金)晴 西畑から

ところがどうだ、僅か1週間ですっかり眠気を吹き飛ばし、春の大気を食い尽くさんばかりに貪り、
山並み同士が競い合って命そのものに覚醒しているでは!
命に満ち満ちている中央線の車窓から放たれた精気に煽られ、仙人はすっかりご機嫌!よーし山だけでなく、春の海にも乗り出さねば!
これから畑仕事や庭仕事が益々忙しくなると云うのに、何考えているのか!

そう云えばこんな能天気なセリフを吐くときの仙人の心象は、救い難き混沌とした底知れぬ闇に覆われ、
何処にも出口は見えず、ただ狼狽えていることが多いのだ。
つまり咽返る命の飛沫に臓腑を抉られたのは、抉られることが仙人にはどうしても必要だったと云うことなのだろう。


 
窯に火入れしたが不調

そこに潜り込んで補修材で
穴や皹を塞ぐなんて作業が果たして可能なのか?
33cmあれば何とか潜り込めることは確かめたが、
その先の15cmの鉄板と補修箇所の
23cmの隙間にはギブアップ!
しかしやるっかないぞ!
狭い窯下で修理作業
3月4日(日)晴 欠落記録

コンクリ床と窯底との隙間は最大33cm、
修復せねばならぬ
バーナー下の円型火口受には鉄の横板が
渡してあり床から15cmしかない。
肝心の補修箇所は床から僅か23cmしかない。


バーナー下から火が噴出しているでは!



炉芯に穴が開いたか?
先週発注して置いた
アルミナセメントが届いたので
窯下にシートを敷いて潜り込み、作業開始。
アルミナセメントをバーナーと
火口受の隙間に押し込み、
スプーンとバターナイフを水に付けて
鏝として使い、しっかり塗り込む。

観える限り亀裂無し
以前に補修したアルミナセメントとの
接着を促す為
霧吹きしながらの作業。
塗り方によっては簡単に
剥離してしまうので神経戦となる。


眼鏡を掛け炉縁に霧吹
狭いので動きが取れず、
潜った窯下の位置から
補修出来る範囲は、120度位が限度。
てことは窯の反対側から
潜っても120度なのでバーナー下の
円型火口受には、
手の届かぬ120度が残ってしまう。

アルミナセメントを塗り込む
さてこの部分を
どうしたら補修出来るか?
バターナイフの先に
アルミナセメントを載せてデリケートな
作業を続け、どうにか終了。

さあ、これで窯は復活か!




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