その148の42018年  弥生

旅を終えた夜明けの光
心眼(mind's eye)とは心の目によって目に見えない真実を見抜く力のこと。密教においては菩薩や釈迦は手のひらに目があり人々の心を常に見ている。
3月26日(月)晴 6時31分21秒 居間チベット壁画画像8:18

閉じた瞳に8分19秒の旅を終えた夜明けの光が突き刺さる。
瞼を無数に走る毛細管が光に透過され、
毛細管に流れる直径7µm(マイクロメータ・千分の7ミリ)の赤血球と呼ばれる小さな太陽を水晶体に投影する。
太陽の中心部で水素がヘリウムに変換される熱核融合によって、
質量そのものがエネルギーに変わり大部分はガンマ線になる。

電気を帯びた荷電粒子と衝突し吸収されたり、屈折させられたり、更に再放射したりしてガンマ線は、
穏やかな電磁波になって数十万年の時を掛けて、
ゆっくり太陽表面まで達し、初めて光となり宇宙への旅を始める。
その無数の光の一筋が8分19秒の飛翔を終えて、今この瞬間に閉じた仙人の瞼に突き刺さった。



山荘池での蝦蟇産卵のゼリー状硝子体
数十万年を経て生まれた光と
僅か74年の老いた命が
奇跡の邂逅を果たし、
瞼の毛細管を流れる赤血球の画像を
水晶体に再放射する。 

水晶体で収斂された太陽は、
剥離された硝子体の画像と
渾然一体となり網膜で像を結び、
視神経を通して脳に送られる。

脳に映し出された太陽は
刻々と変容し
やがて木星と同様の
大赤斑を伴う縞模様を描く。

血潮の海に浮遊する老化硝子体の幻影
プロミネンスの抱く赤血球と硝子体

瞳を閉じる力を変えると大赤斑は剥離硝子体に重なり、
鋭い三日月や馬蹄形、果ては赤血球の円盤となって、血潮の海に浮遊する。
もしやその浮遊する赤血球は119日前の12月1日に仙人の骨髄で産声を上げた
造血幹細胞なのでは!
となるとその赤血球に残された命はあと1日のみ。


ウェブ アニメーター

酸素や炭酸ガスを運びながら
30万回も体内を駆け巡った赤血球は、
自らの墓場である脾臓仁達し、
待ち受けるマクロファージに
捕捉、貪食され分解され
120日の寿命を全うするのだ。

その直前の119日目の夜明け、
仙人の瞼に現れ
8分19秒の旅人を待ち、
老化し網膜から剥離した硝子体の
破片とアンサンブルし、
木星大赤斑の画像を
赤血球は描き出したのだ。 

山荘ゲート前の柳開花
 


池灯で夜明けの日光浴を愉しむ蝦蟇



119日目の赤血球と名付けられた前庭水仙
初めて剥離硝子体を
閉じた瞳に見出した時、慌てて
眼科に駆け込んだがあっさり一言。
「老化による硝子体剥離ですね。

誰でも年取ると生じる現象で、
放って置けば気にならなくなりますよ」
で終わり。治療無し。

ゼリー状の硝子体は
老化と共に液化し収縮する為、
網膜から剥がれたり、
隙間が出来たりして、
目を閉じると
剥離体や空間が浮かぶのだ。
以来十数年この剥離硝子体の
画像と付き合ってきたが、
この画像が夜明けの光と共に
早春の歓びを運んでくるなんて驚き!

赫奕たる血潮の海に漂い、
去り行く命が謳い、叫ぶ。
この歓びは
生理的な死を直近に認識した
細胞たちにしか発することの出来ない、
究極のメッセージなのであろう。

死は再生の予感を微かに孕み、
太陽は赤道を超え
確かに北回帰線に回帰しつつあるのだ。

奥庭白梅もまたゼリー剥離硝子体の幻


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