その1414ー2017年  葉月


甦った30年前の夏休み自由研究

夏と共に去りぬコーラス
去来する雲はただ冷たく、蜩の声はもう聴こえません

蜩の声は聞こえません。でもよーく耳を澄ますと何か木魂の様な響きを感じませんか!
この木魂の深さから判断すると、どうも50年以上も昔の仙人の学んだ、大学のキャンパスから届いているようです。
内容を思索する場は30年前の夏、仙人は確かヒマラヤの8千メートルの高峰ナンガ・パルバット峰に居た筈。
つまり50年前の思索が、その20年後のヒマラヤで回想されているような。
ちょっと聴いてみましょうか!



Ⅰ リーマン空間

 痛みと呼吸困難の中に、彷徨する意識が混入し、一つの像を結び始めた。
 やや苦しそうに、患っている鼻を庇う鈴木敬信が、何か喋っている。耳を傾け意識を集中する。
「マイケルソンとモーリーの実験結果は、エーテルの存在を否定するものでした。
中学生にも理解出来るこの簡単な階分数の式こそ、
+C=Cであることを世界に投げかけた最初の衝撃だったのです」

私が鈴木敬信教授の名を知ったのは、中学1年生の時であった。
その頃、私は暇さえあれば図書館に入り浸り、天体写真集を片端から読み漁っていた。

 何がそんなにまで私を惹付けるのか理解出来ぬまま、ただひたすら銀河にのめり込んだ。
机の上に広げた白黒の宇宙が、広大無辺な本物の宇宙と化し、本の中の宇宙へ落下していく自分をしばしば体験した。

 奇妙なことに、それは同時に自分自身の内部への落下であった。



山荘の森は茸で賑わっています




大地から卵が2つ!
「本当に学びたい者だけが来い」
無言で語りかけている講座であった。
内容は、アインシュタインの
森で生まれた


その何冊かの写真集に
鈴木敬信の名があった。

 意志の強そうな、彫の深い顔は、
高い鼻を中核にして静かな情熱と
知性を漂わせていた。

 
教室の最前列の席で、
その鈴木先生の顔を真近に見、
講義を聴き、
話を交わすようになったのは、
それから7年後であった。
 
彼は東京学芸大学の教授で、
自主講座「人間と自然」を
週1回、金曜日の朝1番に開いていた。
8時半ぴったりに始まるその講座に、
1年間出席しても単位は与えられない。




おや!茸か?

厖大な偶然の集積は、
『自然界が持っている作為的ふるまい』
により
1つの場を選び出し、
ヒマラヤの小さな突起に私を拉致し、
宇宙の海へ放り出そうとしている。

ヒマラヤの小さな突起は、
 
地球表面のオアシスから隔離され、
生命のバリアーを失った
宇宙ステーションなのだ。
小さな突起から始まるこの壮大な
宇宙不毛空間こそ、

知的存在のハイマー(故郷)であり、
知的存在は本能的に、
この過酷な空間に
回帰しようと欲している。
ハイマーは
+C=Cとなる

光速不変の法則や、
ローレンツ短縮や、時間の遅れや、
E=mC²や、
光の偏倚を日常風景とする
5次元リーマンなのだ。


あれっ、卵から真っ赤な卵が!
相対性理論を中心に据えた
自然論であり、人間論であり、
格調高い講義であった。

5月当初、50人近く居た学生も
1月、小金井が寒気に
すっぽりと包まれる頃には、
私と友人の笠井を含めて
10人程しか残らなかった。
 
当時、相対性理論を理解出来る者は、
日本に10人は居ないであろうと
囁かれていた時代であり、
その講義には「人類の叡智の総てが
込められているに違いない」と
私は期待した。

アインシュタインの重力場に
於ける光の偏倚を実証した
ロンドン王立協会会長のタムソン卿は、


 
「アインシュタインの一般相対性理論は
人類の思考の歴史に於ける、
最大の業績の1つである」
と称えた。

高所風が、ヒルヒルと流れる、
まだ夜は明けていない。
雪は止んだのだろうか。

宇宙に突き出したヒマラヤの
小さな突起に身を晒し、
眠れぬままに、
+C=C
示した階分数の式を追い求める。

あの日の図書館での
宇宙への落下が30年後のこの瞬間、
再び甦る。
私がナンガーパルバットの山稜で
ビヴァークしながら、
30年後に再び
宇宙への落下を開始するのは、
必然であった。


みるみる大きくなって!

ほら、とうとう立派な茸に!


名前着けてごらん、カオちゃん!


ちょきクリーム
 
リーマン空間からやって来て、
生命のバリアー、緑のオアシスで、
しばし保育された知的存在は
保育器である細胞を捨てて、
リーマン空間へ回帰しようとしている。

回帰への意図は潜在したまま、
知的存在を操る。
芸術や宗教や化学を育み、
「出発せよ」
と囁き続ける。
中島が苦しそうに、
立て続けにゴボゴボと咳をする。

目を覚ますと思ったが、
そのまま眠り続ける。

アタックコートのポッケより
取り出した手帳に、
幾つか数式を書いてみる。
昨夜の交信で指示した、C2から
C3へ上げる荷のリストの横に、
すっかり忘れていた


の式を完成するまでに1時間以上
かかったような気がする。

この階分数が、ニュートンの世界でも
成立するかどうか考えてみる。

ガリレオとニュートンは
緑のオアシスに歪まぬ空間を見い出し、
暗黒の中世の物理学に
革命をもたらした。

知的存在のエポックメーキング
の瞬間であった。


点の運動を時間
tと距離xを用い、
X=V t なる惰性系で表現し、
速度Vの値を変えることにより、
無数の惰性系を
原点の回りに回転させた。

無数に存在する種々の世界は、
単純な数式
X=V t により、
総て原点のぐるりに集められた。

その惰性系では、
力学の法則は総て成立する。
世界は熱狂した。
偉大なる2個の知的存在は、
生物に模した中世の物理学の支配する
暗黒の世界に
光をもたらした神であった。

力学以外の物理現象も、
歪まぬ空間の真実を表現した2人の
神の数式を基本にして再構成された。
ニュートンの世界は、
生命バリアーの張られた
緑のオアシスを
象徴する真理であった。


モンブラン

卵の笠親分

笠3兄弟

雪降り唐笠

相合い傘

アーメンそーめん
 
龍の卵
温和で、水と緑に
満ちたその世界では、
長さは変わることなく、
時は常に一様に流れ、
物質は物質であり続け、光は直進した。

もちろん同速度VとVの加法は、
V+V=2Vであった。
絶対空間は存在し、あらゆる存在は、
ニュートンとガリレオの神の元に、
平安であった。


+C=Cなる物理学は
断じて許されない神への反逆である。
まず階分数のV₁とV₂に
光速Cを代入する。
分母は2になり、分子は2Cになり、
確かに階分数の値はCになる。


次に光速の30万㎞
/secに較べると、
限りなく0に近い値、
音速の0.3
/sec
V₁ V₂に代入する。
 
食べかけチーズケーキ
分子のV₁ V₂の積は
9×10⁻²となり
分母のC²は
9×1010となるので
V₁V₂÷C²=10-12になる。  
1兆分の1である。

緑のオアシスでは計測不能な、
限りなく0に近い1兆分の1は、
意味がない。
当然分母は1になり、
分子のV₁とV₂の和は0.6になる。
つまり
+V=2Vなのだ。
 
音速の速さで飛ぶ飛行機から、
音速と同じ速さのロケットを発射すれば、
音速の2倍の速さでロケットは飛ぶ。
 
しかし光速で飛ぶ飛行機から、
光速ロケットを発射しても、
そのロケットは
観測者に対して、静止し続ける
ことを、
この階分数は示している。
 
+C=Cなのである。 

花笠饅頭 
 
焼立てパンケーキ

アインシュタインは
生命のバリアーを超えた、
遥かな空間に呼びかけ、
思念を凝らし、

意識を集中し、
特殊相対性理論を完成し、
この速度の加法公式を導いた。

 
白箒ポッキーチョコ

霜降り栗饅頭
 ガリレオとニュートンの
築いた真理の王国を、
あっさり突き破った
アインシュタインは、当時僅か
26歳、

1905年のことであった。
アインシュタインに初めて、
「出発せよ」
と囁いたのは、
羅針盤であった。

1つ目兄弟
4歳の時父に
見せてもらったその針は、
常に明確で,
ある一点を指し続けた。

 誰が・・・・・・・・?

 
なんのために・・・・?

 そしてその点の意味は・・
・?
それは強烈な衝撃であった。 
 
食べたいお菓子の森
そして彼は
出発せねばならなかったのだ。
出発後、最初に登りつめた頂点で
アインシュタインは、
この階分数と邂逅した。

階分数はガリレオの真理の王国と、
頂点から見える
新しい地平線の彼方を結ぶ、
5次元リーマン空間への
パスポートであった
 
 
鬼雪だるまとアリンコ
 
魚カルパッチョえっ、これも茸?
 
達磨さんが転んだ!


嘲笑うボン・シルバーに同調する虹
クソ面白くもない、何がリーマン空間じゃ、自由研究が聴いて呆れるぜ!

「しかしなんだな、
≪奇妙なことに、それは同時に自分自身の内部への落下であった≫
の部分だけ肯けなくもないな!
つまり仙人は中学生の餓鬼の頃から、ずーっと落下し続けていると云うわけだ。
で、どうなんだい、一体何処まで堕ち続けるんだい?
えっ、なんだってー、≪虹の彼方に≫までだって!阿呆臭くて洒落にもならんぜ」

とボン・シルバーや虹にまで嗤われて混沌仙人はすっかり意気消沈。
山荘とともに魔法の国オズへ堕ちた仙人は、果たして、少女ドロシー・ゲイルのように、
知恵がない案山子、心を持たないブリキ男、臆病なライオンと出会うことが出来るのでしょうかね?
そして再び山荘に戻って来れるのでしょうか!



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