惧れを知らない 皐月の青嵐
その139の2ー2017年 水無月 |
雪の北鎌尾根登攀者とK2峰隊員が扇山に出現 6月5日(月)晴 紫スカーフを纏った扇山の頂 ≪にえすPhiqono≫ 畑仕事のご褒美に、新緑の扇山に登りました。 落ち葉が敷き詰めた小石交じりの道を楽しく登って行くと、尾根に出たとたん、さーっと心地よい風が吹き渡って緑がざわめきます。 扇のかなめに当たる最後の登りはかなりの急斜面で、ずいぶん高い山に登ったような充実感です。 頂上では仙人特製の陶器の標識が1カ月ぶりの再会を喜んでくれました。 見上げると、柔らかい緑が太陽を浴びて眩しく輝いています。 4月には三つ葉ツツジと生まれたばかりの緑がつつましく鎮座していた山頂でしたが、 自然はたった1カ月で、あたり一帯を6月の瑞々しい新緑に変えていました。 さて、下りは一転、扇のかなめ部分はずるずる滑る危険地帯と化し、 木の根に足をかけて踏みとどまり、立ち木に抱き付いて、神経を使いながらの下りとなります。 |
先ずは林檎の摘果 |
高い処は梯子で |
無農薬なので虫に喰われそう! |
と、その時、私のズボンのポケットに 一瞬何かが触れ、 ポケットから大切なものが 軽やかに引き抜かれたような気がしました。 急坂が終わって、ほっとしたところで 気が付くと、スカーフがありません。 あっ、あの時だ。確かにそっと ポケットから 抜き取って行ったものがいたのです。 |
明日も来ますから、 取って置いて下さいね、と 森の精に言づけて、翌日も畑仕事の後、 再び扇山にご挨拶に行きました。 登山道に開いていた幾つもの穴は、 森の伝令ネズミの ものだったのでしょうか、 確かに言づけは伝わったようです。 急坂の木立に、お願い通り、 私の紫のうす絹の スカーフがありました。 |
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4つを1つにするなんて! |
食べられないかしら? |
緑の光と風の唄 ≪吐蕃子≫ 夏の始まりの日々を山荘で過ごせた。 はるか上空に寒気団が滑り込んで、空気は冷たく冴え渡り、夜明けの富士が薔薇色に染まる様はそれは見事であった。 大地は未だ夜の名残りのまま暗く重い緑の底に沈んでいるのに、 富士は東の側面を柔らかな薔薇色に染め、窓から見える青々と茂る木々の葉の向こう側で、 まるで、大空に一輪の美しい薔薇の花が開いたかのように麗しい。 雪を被ったような山帽子の白い花が、暁の光に浮かび上がる。夏の始まりを告げる美しい朝だ。 朝日に輝く森に向かって深く息を吸い込む。 |
次はじゃが芋の収穫で=す スカーフを私のポケットから抜いて、 木の枝に掛けたのはだれ? ふっと浮かんだのは、愛らしい少女の姿でした。 もしかするとイリスかな? そういえば彼女のうす絹は色がありませんでしたものね。 下りの道で、右手にパッと開けた森を見下ろすと、 4月に咲き誇っていた山桜の花はすっかり姿を消し、 今は一面の緑。遠くの山並みまで緑一色です。 |
枝の間に大きく広げて掛けてあります。 天女の衣のような、けむりのように薄い紫の絹。 奇跡のように美しく広げられた繊細な衣のひだに 透き通った風が優しく吹いて、うす絹は揺らめき、翻りました。 人間の手でもあんなにきれいに広げることは難しいでしょう。 責任を果たし、喜んで駆け回る伝令ネズミの姿が一瞬横切りました。 再びの山頂で一休みしながら、私の疑問は膨らみます。 |
未だ小さいけど、これが美味しい! |
誰も風を捉える事は出きない その度に、緑の葉を透過した光の粒子が身体の中へと流れ込み、気がつけば全身がもはや緑の光へと変換され、 透き通った緑の巨大な虫になり、ただただ光を貪り続ける。 やがては意識さえも透明になり、光と共に旅立ち、緑の木々を揺らす風となる。 風となった意識は森を走り抜け、葉裏を一斉に翻らせ、白い風の道を描き出す。 けれども、あっという間にまた森は総てを呑み込んで、深い緑の山となる。誰も風を捉える事は出きない。 森は押し寄せる巨大な緑の波のようでもある。 緑色の光の海に落ち込んだものは、すべて透明な実体のない浮遊物へと変質して、ただひたすらに遠くを目指す。 遠くといってもそれが実際何を基準にして測る遠さなのか、その拠り所となる概念が失せてしまったことに気がつく。 必死で握りしめ抱きしめているものがある筈なのに、金色の波に翻弄され、結実して行くのか溶解してしまうのかさえもう定かではない。 白い波頭の天辺へ浮かび上がった浮遊物が砕け散り、飛沫になって大気に飛び出せば、 森の風と手を結び、何がしかの意識が再び光の形を取り戻し、小倉山の峰筋に美しい白い風の花を咲かせるのが見える。 ああ、今確かに風を見たのだねと、太陽が囁く。 |
風が白い葉裏模様を描く |
青嵐 (青嵐:初夏の青葉を揺すって吹き渡るやや強い風) その緑の中で、 白く葉裏を返している木立が目を引きました。 「見たよ、見たよ、 イリスだよ」と、言っています。 木々は風の力を借りて 盛大に信号を送ってくれたのです。 一面に愛らしい白い花をまいて 帰り道を飾ってくれたエゴの木も、 「怒らないで、イリスは綺麗なものが 欲しかったんだよ」と味方します。 山荘ゲートの欅の大木に飾られた |
同じ森の白い絵が瞬時に変わる |
西條八十の訳詞だという。ずっと長い間<僕もわたしも見やしない>だと信じて歌って来た。 <僕とあなた>が正しい歌詞だったとすると、この詩は実は幼い者たちの視線で風を歌ったのではなく、 恋人への愛の唄だったのではないかと、不意に思った。 誰も目にすることが出来ないものを見たという想い。恋人たちは、ある瞬間、確かに互いに同じものを見つめ、感じた。 ほんの一瞬の捕まえるのことのできないもの、通り過ぎて行ってしまうものなのだけれども。 でも確かにそれを見たのだ。そんな想いだけを共有して、恋人たちは木立を見上げる。 山荘の大きな空の下で、風の通り抜けていくさまを観ていると、そんな物語が浮かんできた。 |
胡瓜のネット張は絡み合ってパズル |
黄色と赤のきれいなブーツは イリスのものになったはず。 夢のような色合いのアンネのバラも あなたのものだったのに。 あざみのような紫の薄ものまで 欲しくなったのね。 |
発芽大葉をポット植えに |
透き通った風、午後の日を受けて オレンジに染まる雲。 鳥たちの声。 うぐいすは何時までも澄んだ声で 空気を震わせていました。 山荘のゲートにたどり着くと、 宝石のようなガラスのかけらが 散らばっていて、 無数の宝玉が結ばれているという、 |
たっぷり水撒きして |
インドラの網を想い出しました。 天人の瓔珞として衣を飾る宝玉です。 賢治が描いた天の童子も 瓔珞を着けていたのでしょうか。 童子たちは 綺麗なものが好きなイリスの弟たち なのかも知れません、 ふとそんな気がしました。 |
4時半起床じゃ! |
ガラスに浮き出た とぎれとぎれの水色の文字は ちらちら瞬いて 「おかえり」と読めました。 暗い草原を歩いてきた私を迎える メッセージが 書き込まれていたのでしょうか。 留守番役のカロス・キューマは おとなしく太陽を浴び、 緩やかに回って網の目の影を 床に落とし続けていました。 |
畑で迎える夜明け |
混乱するほど色々働いた 畑作何をしたかと思いだそうとすると混乱するほど色々働いた。 水撒きと雑草取りは4つの畑に亘ると、それだけでも一日仕事。林檎の小さな実の摘果は、 初めはもったいなくてなかなか捥げなかったが、だんだんと要領が分かりだすと、大きく育てたい実のイメージが湧き、 未熟な実を処分するのが苦で無くなる。 捥ぎ取られた小さなさくらんぼほどの実を何とかできないかなと思うのだが、結局は暇もなく放置せざるを得ないのが残念。 茗荷畑の傍、西畑の端に生まれたばかりの青紫蘇の新芽がたくさん出ている。 それを掘り出しポットに移す。上手く着けば、改めて畑に返すとのこと。 これも思いのほかたくさんのポット苗が出来、上手く着床しそうな様子に成功!と喜ぶ。西畑の西境に、南瓜の棚づくりを開始。 先ずは既にはびこり始めた雑草や蔓を刈って、雑草除けの黒いビニールを貼る。 |
収穫後の畑に石灰を撒いたら雪山みたい! 6月5日(月)晴 手に持ってるのは大葉のポット 夕方の薄水色の空にぼんやり白い10日の月がかかり、雲がさまざまに形を変えて渡っていきます。 大空の下、遥かに望む富士山はずっと山荘の盟友です。 どっしりと腰を据え、一帯を睥睨して、福生里の盆地、小倉山一帯を 緩やかに掌に収め、山荘を見守っているのです。 25年前、この山荘の地は一面胸までの藪が生い茂り、今のような眺めはなかったのでした。 藪を切り拓き、山を削って谷を埋め、山荘の地が生まれました。 富士山に向き合う土地の誕生です。 畑もどんどん広がって、開墾と土づくりに、 たくさんの汗が流され、この肥沃な土地が育ちました。 繰り返す試行錯誤、悔しい思いと歓び、山荘の土はそれをしっかり記憶しています。 |
収穫後は施肥し耕運機掛け |
カロス・キューマが観てます |
清冽な空気にこころを洗われ、 鳥たちのさえずりにホット安らぎ、 農作業の合間に望む 富士の姿に疲れを癒され。 富士は季節ごと、刻々と姿を変え、 いつも新鮮で 見飽きることがありません。 |
畑の温かい土の上にひっくり返って 空を見上げると、青空を雲が流れ、 風がほのかな香りを運んできます。 林檎の木の匂いです。 たくさん摘果したから、 今年は立派な実がなるでしょう。 最初の一つは盟友富士山への プレゼントにしましょう。 |
富士もご挨拶! |
あれ!動かない |
水源の森から切り出したという長い支え棒を利用して、何とか南瓜がぶる下がれそうな棚が完成。 南瓜苗の選定も行う。天空南瓜が鈴なりになる日が楽しみだ。 じゃが芋の収穫も西畑。まだ小さな芋が多く、もったいないような気もするが、この小ささがから揚げにして食べると美味しい。 結局西畑の芋は全部収穫、その後を耕耘機が耕す。 トマトを支柱に縛り直し、キウイの枝切りにも少し着手するが、納得いくまでやるには時間が足りない。 随分頑張って畑仕事をしたつもりでも、雑草たちは一週間もすればまた伸び放題、 きっと今回の心地よい汗や頑張ったなんていう満足感は、もし次の週も畑に足を踏み入れたなら、夢か幻だったと思い知らされるのかもしれない。 毎週欠かさず畑の作業に勤しむ仙人に脱帽! もっと時間をやりくりして、畑の手伝いに来ないと、美味しい野菜を味わうばかりでは罰があたりそうだ。 |
無心に土に還る |
暫く捏ねないと土は死ぬ |
あおあらしー青嵐 葉裏を返し爆裂する新緑 飛び立ちたいのだ ここでないどこかへ 大地に足をつかまれて 動けないのだ |
白白と葉裏を返し荒れ狂う 神にあらがう力の奔流 とらわれの身の焦燥か ざわめき苛立つみどりの咆哮 |
硬い土が優しさを取り戻す |
頂の三角点に立って |
土を捏ねる 豪華ディナー冨美代さんの海老フライ30匹、二人とも持参のスペアリブはガスオーブンの3段の棚全部使用しても足りないほど。 という訳で山トレから戻ってのディナーはボリューム満点の大皿が並び、若い山男でも食べきれないほどのご馳走でした。 山荘活動の後の満ち足りた心地で、テラスレストランでの乾杯を交わし、ご馳走と共に初夏の一日がゆっくりと暮れていく時間を味わいました。 土を捏ねる。大忙しの時間の合間に、目的の陶芸の時間も設けてもらい、久々に土と触れ合うことも出来た。 畑の大地とはまた違う、直接ものを創り出すことに繋がる土捏ねは、何か異なる時間の流れがあるような気がしている。 土を捏ねていると無心になれる瞬間があるようで、子供の心がひょっこりと顔を出すような気がする。 何か分からないけれど、期待に満ちたワクワク感が掌から生まれてくる瞬間。 今回は土を柔らかくして、また四角に纏めるだけの作業だったけれど、それでも充分に楽しい時間だった。 |
何か観える、もしやあの紫スカーフ! 若いみどりのままに枝を折って 倒れて行ったものもあった せめて覚えておこう そこに倒れているのはかつての 惧れを知らない私の分身 繰り返される 皐月のあおあらしー青嵐 (青嵐夢を破って、その面影も見えざりけり 青葉を吹きわたる風が、野宿をする有王の眠 りをさまたげて、 夢にも俊寛の面影は見えなかった。 平家物語3 注:仙人) |
いつか深い緑に落ち着いて 全てを静かに受け入れて、 治まる時も来るのだろうか 懐かしくも愚かしい反乱だったと 諍う力のあまりの強さに力尽き |
うす絹は揺らめき、翻りました |