その138の2ー2017年 皐月 |
撮影者:林檎・Yosuke
登攀者:混沌仙人
ザイルを結び雪壁に入る さて仙人は何処で修行するんだろう? 混沌仙人の山荘を訪れる 妖精たちは じっと仙人の眼を見詰めて、ときたま そんな光を投げかける。 |
西穂高岳山巓直下の雪壁 5月3日(水)晴 西穂高岳(2909m) |
左に雪崩の亀裂が走る |
ダブルアックスのピックが小気味良く決まる雪壁 5月3日(水)晴 西穂高沢上部の雪壁 そんな修行なんてかっこいいもんじゃなくて、単なる遊びなのさ。 ほら時々君たちの両手を握って、 グルルン、ぐるるん回してやったりしただろう。 あれとおんなじさ。 両手にピッケル握って、こんな風に雪の壁に叩き込んで登ったりして遊ぶのさ! |
雪庇崩壊に怯えつつピッケルを振る 唯それだけじゃ、飽きちゃうだろ! そこで何か面白いもんは無いかなと、 キョロキョロして、 雪の稜線から垂れ下がっている雪庇なんか 見つけて。 茸のような雪庇を登ってみたりして、 あー、あー落っこちる! なんて叫びながら遊ぶのさ! |
緊張する雪庇登攀 |
崩壊のカタストロフィに慄く |
生の歓喜が甦る一刹那 5月3日(水)晴 西穂高稜線の雪壁 そんな難しいこと云ったって解んない! 生の歓喜ってなんなの? ほらいつか山荘の2階のログハウスからちんぽこ出して 下界に向かってションベンの飛ばしっこやっただろ。 代々木のマンションに帰ってから、 嬉しくて得意になっておばあちゃんに自慢して話し、怒られたりしただろ。 あれとおんなじさ。 |
壊れました! |
未だ分裂はしてませんが! |
えっこれで登るんか! 陽介が驚いている様子もなく はにかむ少年の様な 笑顔で話しかけて来る。 「先生のこの靴、壊れました」 観てみると壊れたなんてもんじゃない。 亀裂が走り 見事なまでに破壊されているでは! 右足の靴は爪先近くまで裂け 左足も数本の亀裂が生じ、 分解するのは時間の問題。 陽介がこの非常時に 驚きもせず狼狽えもせず 笑顔なのには おっ魂消るが、 それに応える仙人も それに輪をかけた破顔で応じるでは! 「あーアウターブーツが割れたか。 アイゼン履いて 細ロープで結べばいいだろう」 |
穂高での雪壁登攀に行こうと 高気圧の張り出しを 待っていたらシリコンバレーの 林檎・Yosukeから例によって 全く素っ気無いメールが入る。 ≪ご無沙汰しております。 例によって急なことで あまり時間もないのですが、 五月の最初の二週間、日本に行きます。 今回も一人です。 HPの仙人日記が 終わってしまったようですが、 現在は日本におられるのでしょうか? 林檎・Yosuke≫ そうか、そんなら陽介と 久しぶりにザイルを組んでみるか。 とヒマラヤで履き古した プラスチック・ブーツを引っ張り出し アイゼンやピッケルと共に 貸してやったのだ。 履き古した登山靴は革製も2足あり どれを貸してやろうか迷ったが 残雪期は濡れるので プラブーツの方が良いだろうと 思ったが、ちょっと古すぎたか! |
靴底とは何とか繋がってます |
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インナーブーツは使えます |
細紐でアイゼンと結べばOK |
母雷鳥がやって来て見物 |
重い革の二重靴は濡れて 凍てつくと更に重くなり アウターブーツとインナーブーツが 剥がれなくなる難点がある。 濡れない上に軽く保温性も高い プラブーツ登場は ヒマラヤでの足指凍傷の恐れを 減少すると期待され 若き仙人も早速購入。 1足目はスカルパ、2足目が 1992年暮れに買ったこのコフラック。 |
子雷鳥も興味津々! |
最初の足慣らしガイド山行で ≪青いけしの会≫を連れて 1月の白毛門から朝日岳へ。 新品のプラブーツを履いて テント前を歩いていたら近くに居た 晶子がよろめきアイゼンで ブスリと仙人のプラブーツを踏んづけ 穴を空けてしまったのだ。 もしやその穴から亀裂が 広がったのではと 24年前の穴を調べると確かに |
あれっ靴、脱げそう! |
穴は亀裂上に在る。 しかしプラブーツは元々老化すると 加水分解を起こし 砕けてしまうと云われているので、 晶子の穴とは関係無く破壊したのだ。 デビューで教え子の晶子に 穴を開けられ 終焉の瞬間を、教え子の陽介に 看取られたこのプラブーツは 24年の生を謳歌し全うしたに違いない。 棄てないで 山荘のオブジェにして飾ってあげよう。 |
笠ヶ岳(右)から錫杖岳(左)への稜線に墜ちる光 5月2日(火)晴 西穂高山荘からの日没 観たことないんだけど、 この風景、ぼくの中に棲んでるような気がするな! そうとも妖精だけが感じる絵さ。 妖精の心にはもっともっと面白い絵が、 いっぱい詰まっているんだぜ! |
西穂山荘 |
明日登る西穂稜線を背景に
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窓から錫杖岳が見える |
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2年後の1990年には壮麗な墓標 と云われた人喰い山・ ナンガ・パルバット峰(8125m)の 南壁側シェル・ルートの隊員として活躍。 1名が辛うじて登頂したものの アタック隊員の1名が墜死。 「生と死」と題して 陽介君はこう記している。 |
「求めるものの結果としての 危険をいとわない、 というのは別の問題である。 あとはそのバランスや 量の問題であり、 求めるものを少しでも確実にするために 危険を回避、 あるいは少なくするするための 技術や知識を必要とする のであるから、 危険それ自体を求めている のとは違う」 |
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窓に映る霞沢岳「 |
小屋に無料水はないので雪を解かして |
山荘裏の夕散歩 |
西穂山稜 右:独標 左:西穂山頂 |
テロの疑いありと パキスタン政府から出頭命令が下され イスラマバード本隊の陽介君が 単身カラチへ向かう。 |
どうにかテロリストの 疑いは晴らしたが40日間しかない 遠征日数は半減し、 急遽近場の未踏峰に目標変更。 登頂しビアンゴ2峰と命名。 |
ラッセルは愉快だね |
雲海を見降ろす夜明の旅立ち 5月3日(水)6:18晴 雪稜から再び昇る光 ほら例えばこんな絵も観たことあるだろう? これはね、妖精たちが蝉の抜け殻を捨てて、もう一つの光に出逢う時の絵なんだよ。 |
神々の座は崇高な光を放ち 人類が知的存在として歩み始めた日、神々の座は崇高な光を放ち、地平線に輝いた。 その日から生命に与えられた知の使命は明らかになった。 知的存在は神々の座を求めて、遥けき地平線に緩やかな第一歩を踏み出したのだ。 個体が知のプログラムの全貌を認識し、実践することは出来ない。 だが知的存在が残した膨大なメッセージ(軌跡)を追うことによって、プログラムは明瞭になり 部分的な実践は可能になる。 (Broad Peak1989年当隊報告書、≪神々の座≫より抜粋) |
静寂が肉体を透過する この光に墜ちると 妖精は体がムズムズして、 もう妖精でいられなくなるんだ! |
終焉の邂逅 |
日輪に墜ちて光に回帰せよ! |
明神岳からの払暁 聴こえるって! うーん、妖精にしか聴こえないのが 悔しいけど、 確かに光を浴びて雲海は 妙なる音色を流しているんだろうね。 |
光が山を喰べてるって! その通り。 光は山だけでなく、時には 人だって喰うんだぜ! |
雲海上に聳える南アルプス |
迫る奥穂高岳 妖精たちが突然、 ピアノの連弾を始めたことがあったね。 どっかで聴いたことがあるような。 そうそう確かあれは ベートーヴェンの≪歓びの歌≫だったね。 |
山荘のテラスで、 山荘畑の採れた野菜や果物を食べながら 大人たちが ワインやビアを呑んでいると、 |
明神岳を背に登る仙人 |
3月に登りスキー滑走した乗鞍岳 未だ日本語だってたどたどしいのに、 いったい何処からドイツ語が 出てくるのか? そうか若しかすると妖精は山なのかな。 雪山はその研ぎ澄まされた三角形で、 風を切り裂いたり、 叩いたりして≪歓びの歌≫を歌うんだぜ! ドイツ語かって? |
驚いたのはその小さい妖精の口から ドイツ語が飛び出して 朗々と≪歓びの歌≫を歌い出したこと。 |
逆光に翳る前穂高岳 |
ピラミッド峰から西穂、奥穂への稜線 雪山を眺めながら 妖精たちと話してる混沌仙人を カメラで追いながら、 陽介君はニコニコ。 きっと 「相変わらず仙人は混沌そのものだな」 と呆れているのでしょう。 |
そりゃそうさ。 朝はグーテンモルゲン( Guten Morgen) 夕べはグーテンアーベント(Guten Abend)と 昔から妖精と同じドイツ語で 歌っているのさ。 やっぱ山は妖精なんだ! |
前穂(右)から奥穂(左)への吊尾根 |
弓折岳をバックに |
ピラミッド峰を超えて
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独標からの笠ヶ岳 |
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レーニン峰、ナンガ・パルバット峰、 ガッシャブルム峰遠征後 陽介君はアンデス山脈の最高峰 アコンカグア峰に3回参加。 更にネパールの アイランドピークにも登り、 雪辱戦となったガッシャブルム峰に 再度挑戦。 |
混沌仙人が隊長として 計画し実行してきた35回に及ぶ 海外登山の内、陽介君は 8遠征に参加し活躍してきたのである。 仙人の新品プラブーツにアイゼンで 穴を開けた晶子も 第5回ナンガ・パルバット峰遠征隊に 参加したヒマラヤ体験者。 |
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雪壁登攀後 |
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破壊したプラブーツで山頂に立つ陽介 |
ちょっと登攀者を拡大 なーに、ザイルを結んで 墜ちても途中で止まるようにしておけば、 大丈夫さ! そら雪のレースの上に載せてあげよう。 |
よーし一緒に遊ぼう! 4枚のレースの飾りを着けたあの雪稜で ピッケルを振るうなんてどうだい? |
まじっ、ここ西穂! |
優美な雪稜にうっとり! あの優しい雪の膨らみ。 おっぱいみたいだね。 きっといろんなお話しがいっぱい 詰まっているんだろうね。 聴きたいって! そんなら 雪壁に耳を当ててごらんよ。 |
誘ってるだろ! 観ただけで武者振りつきたくなる程 美しいよね。 |
3台のカメラで陽介君大活躍! |
左横に雪崩の落下痕 そりゃ時には轟音を立てて 雪崩に襲われることもあるけど、 ちゃーんと耳を澄ましていれば、 教えてくれるんだよ。 |
微かに微かに聴こえてくるだろう! 命のアリアだよ。 |
素晴らしいこの高度感! |
圧し掛かる頭上の雪庇 その雪崩の親分に乗っかって みるなんて愉快だろ! さあ、乗っかる前に訊いてみようぜ! 「乗ってもいいかい?」 そーらアリアを歌い出したぜ! 「嫌われもんのおいらと 遊んでくれるなんて嬉しいな! 大歓迎するよ」 |
雪庇は雪崩の親分。 こいつが落ちてきたら一巻の終わりだけど、 こいつ意外と優しくて、落ちる前に アリアを歌って 教えてくれるんだ、。 |
2度目の挑戦じゃ! |
山荘オブジェのカロスキューマはラグランジュ点の指標 (NASAderivative work画像を上下圧縮し編集 右端がL2) |
宇宙へのオデッセイ港・らぐらんじゅL5 5月3日(水)8:40晴 宇宙との接点であるヒマラヤ高峰の山巓を超えて、宇宙そのものへのオデッセイを志向し、 林檎・Yosukeは宇宙飛行士の途を歩み始めた。 月と地球の重力バランスポイント(平衡解)である5つのラグランジュ点とヒマラヤを酒のつまみにして、 陽介君と近未来のオデッセイについて語り合ったのは3年前。 月と地球を結ぶ直線を1辺とする正三角形の頂点に存在するL4、L5を拠点としてのセーリングと 月登山の実現性について熱く語った。 その後、一緒にヒマラヤで何度かザイルを組みながら、 陽介君とは何故か1度も近未来のオデッセイについては、話し合っていない。 3年前のあの時、陽介君の胸中には既に宇宙飛行士への挑戦が、プログラムされていたのかも知れない。 (チベット未踏無名峰へ1998年当隊報告書、巻頭言より抜粋) |
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