春と修羅を追う混沌仙人
その137の4ー2017年 卯月 |
中央アジアからの旅人・鬱金香(うっこんこう) 4月16日(日)晴、奥庭 最後の笛吹川での川中島春合戦 もう待ちきれないと云わんばかりに漆黒の鬱を突き破って、金の光を放ち始めたチューリップ。 どれどれ鬱金香などと呼ばれているお前さんの、春の香りを撮ってあげよう。 漆黒の花粉を放つ雄蕊はピントが合っていて実在感があるけど、雌蕊は蜃気楼となって中空に浮かんでいて幻想そのもの。 翳を境にして碧と黒の翅が雄蕊の翳紋様を映し、金の光に揺らめいているね。 あれっ、翳の為す山の斜面に修羅が踊っているぜ! そうかこれは今日、笛吹川で開かれる武田信玄と上杉謙信の川中島合戦の招待状なのかも知れないぞ。 そう云えば黒い翳はどことなく武田菱に似ているような! 仙人が足繁く通い続けたパミール高原やヒンドゥークシュ山脈からやって来た鬱金香の招待じゃ行かねば。 |
やっと辛夷の出番でーす (前庭) |
朝は蕾だったのにと石楠花! (奥庭) |
山荘の春 吐蕃子བོད་ཆེན་པོ(Bod chen po su) 山荘の標高は約600m、 季節の訪れが平地とはかなりずれる。 春はゆっくりゆっくり やって来るので、盆地では 既に桃の花盛り、 山荘から眺めやると ピンクの模様に染まっている。 |
山荘周辺は李の花が満開、 淡いクリームがかった白い花が 雪を被ったように ぽってりと咲き誇る。 開き初めた桃の花を一層 初々しい桃色に見せる効果がある。 今年は寒の戻りが繰り返され 東京でも桜が4月半ば近くまで楽しめた。 塩山までの沿線も桜が満開、 勝沼では見事な花のトンネルに 多くの人が集まってもいた。 |
水仙の花芯も観て! (前庭) |
白椿は花芯をみせないね (奥庭) |
未だ咲かぬ桜と新倉山五重の塔 4月16日(日)晴 カメラを構えても桜開かず 数年前から新倉山の五重の塔がTVで話題になっている。 雪富士と五重の塔、それに桜が加わると正しく日本のシンボルと映るらしく 外国人の人気スポットとして騒がれ出したらしい。 一度は観ておかねばと行ってみてガックリ! 慈雲寺のように静かで素朴な光景を想像していたが、とんでもない。 |
昨日、今日と≪さくらマルシェ≫と 名打って賑々しく開かれた会場には 出店が並び、特設ステージでは 三味線弾き、漫才、ダンス、歌うたいと 目白押しのプログラム。 |
太平洋戦争の忠魂碑で1963年建立 |
この枝が咲いたら明るくなるのに |
|
駐車場は満杯で地元小学校のグランドを 駐車場にして、 シャトルバスが 会場から離れた学校と新倉山浅間公園を 結んでいると云う有様。 |
黒雄蕊を鮮やかに映し出す白紋様 (奥庭) |
げんなりして駐車料金千円を払い 398段の咲くや姫階段を 上って五重の塔へ。 標高が高いので塔周辺の桜は 未だ数輪が開いているだけで寂しい。 午後になると逆光になり 五重の塔は影で、 雪富士を入れてもさまにならない。 何よりも人が多すぎて 写真を撮る場所の確保も儘ならぬ。 |
逃げるようにして川中島合戦の 開かれている石和温泉近くの 笛吹川へ向かった。 春の開催は今年が最後なので 気合の入った戦いが 繰り広げられるかと期待していたが、 全く迫力に欠けていてガックリ! 以前は観客側の笛吹川右岸の 流れの中での迫真の激闘が演じられたが、 今年は観客から遥かに離れた 左岸でチラホラ散発的な水中戦が 演じられただけ。 |
揺れて錯乱する雌蕊 (奥庭) |
正に光の受け皿 (奥庭) |
桜、李、桃に加えて三つ葉ツツジの 濃いピンクもアクセントになり、 一斉に開いた春の花々を愉しめる 滅多にない機会だ。 春の訪れは それだけで心を弾ませるのに、 山荘を訪れることが出来たので、 桃源郷の素晴らしさを存分に味わい、 色彩の豊かさに 生命の歓びを感じる春となった。 |
里を見下ろしてお喋り (奥庭) |
NHKで紹介されていた桜と富士山と 五重の塔が 同時に写真に納められる場所 として人気があるらしい 新倉山探勝へと繰り出すことに。 車窓からの桃の盛りの風景は 何度も目にしたが、 この時期の甲府盆地を車で走行という 経験は初めてかもしれない。 |
石楠花とは思えない花弁 (奥庭) |
どこを走っていても 目の中にピンクの広がりが 飛び込んで来て、 この季節ならではの 特別な風景。 南アルプスの白い屏風と その裾を彩る 優しいピンクの濃淡が なんともファンタジックで新鮮だ。 |
この瞬間を撮ってと水仙 (前庭) |
鬱金の主役は花芯よ (奥庭) |
ひっそりと芝桜も (滝下) |
春と修羅 4月16日(日)晴 最後の笛吹川での川中島春合戦 ≪春と修羅≫ 賢治を待つまでもなく春と修羅はおどろおどろした粘液に在り、 ぬらぬらと乱反射する被膜はmental sketch modified(心象スケッチ)となって、命の呻きを映し出す。 鬱金香の花芯をカメラで覗いた瞬間、像を結ばぬ濡れた雌蕊と 漆黒の花粉を振りかざして迫る鮮明な6つの雄蕊が、使嗾する≪春と修羅≫となって 招待状と化したのは、ぬらぬらと乱反射する被膜そのものであったか! 切れ、切って切って切りまくれ! 五臓六腑から噴き出す、おどろおどろした粘液に映し出されるmental sketch modifiedを しっかり見届けるが良い! |
総勢900人の壮大な野外劇・川中島合戦2017 |
目的の新倉山は祭りが開かれ 、臨時駐車場からシャトルバスで 送迎という人気ぶり。 すっかり観光名所になって しまっているようで、半分近くは 外国人かと思われる見物客に 交じって歩くのは、イメージとは大分違う。 桜もまだ開き始めたばかりで、 写真も残念ながら良いものは撮れない。 富士吉田の町を見下ろし、 富士山が真正面に裾までを見せている。 |
そこに五重の塔と桜とくれば、 確かにこの構図外国人には 大人気なのだろう。 でも富士山はあまりにも近くで 全貌が見えると圧迫感もかなりのもの、 この街で暮らすということは 常に富士山に見下ろされている気分で、 その向こうに逃げ出したくなって しまうのではないか。 山荘くらいが富士山との距離としては ちょうどいいような気がする。 |
笛吹川を千曲川、犀川に見立て阿修羅となって殺し合う |
上杉謙信が武田の陣中に騎馬を乗り入れ信玄に迫る 4月16日(日)晴 笛吹川の武田陣中 『甲越信戦録』 謙信公はただ一騎で信玄公の床机の元へ乗りつけ、三尺一寸の太刀で切りつける。 『信玄公は床机に腰を掛けたまま軍配団扇で受け止めた」とある。 『甲陽軍鑑』 馬上から切りつける謙信の太刀を、信玄は床几から立って軍配団扇で受けとめたと記している。 『川中島五戦記』 御幣川に馬を乗りいれ、川の中での太刀と太刀との一騎討ちであるとしている。 謙信が第4次川中島の戦いで自ら太刀を抜いて戦ったことは公家の近衛前久の 戦後に謙信に送った書状から読み取れる。 謙信が自ら太刀打ちをしたことを激賞しているのである。 しかし信玄との一騎打ちが行われたなら当然、謙信は近衛前久への書状に記した筈。 つまり信玄との一騎打ちは無かったことになる。 使嗾する≪春と修羅≫は謙信と信玄を傀儡にしてmental sketch modifiedを 五臓六腑から噴き出す血潮のぬめりにプロジェクトしたかっただけなのだ。 |
武田の騎馬武者が謙信を追う |
次は笛吹き川河原で繰り広げられる 川中島の合戦を見物する為に、 石和温泉へと向かう。 陽射しはもう初夏、 汗ばむくらいの陽気となり、 これなら川に飛び込んでも 寒くないのでさぞや勇壮な闘いが 繰り広げられるだろうと 期待しながら出向く。 ところがここでも期待外れ、 河原の向こうで大パノラマが 演じられてはいるのだが、 川幅が広すぎて迫力が伝わってこない。 |
闘いも橋の上でちまちまとしか 行われないので、 川中島合戦の気分としては 盛り上がらない。 仙人は望遠レンズを構えて 何とかいい画を撮ろうと陣取っていた。 河原の桜は満開で、 長閑な春の午後を愉しむ 人波の一員となって、遠い時代に 思いを馳せて絵巻物を見物するのも なかなか良いもんだ。 |
上杉軍の鉄砲隊が射撃開始 |
上杉謙信麾下随一の猛将・柿崎景家、軍師・山本勘助を討ち取る |
並んだ出店から漂う 美味しそうな匂いに空腹を覚えながら、 帰路はまた桃色の盆地を走り抜ける。 山荘下の桃畑の朝には 未だ蕾だった花が、 開き始めているのには驚かされた。 辺りが桃色に霞んで明るさを増したようだ。 もちろん冷えたビールが 殊の外美味しい贅沢な夕餉となり、 8時過ぎには最早夢の中。 |
まさしく山荘生活は 日の出とともに目覚め、 夜の帳に包まれれば眠るという 動物の当たり前の体内リズムに 支配されるから面白い。 夜明けの気配と共に起き出し、 畑仕事に精を出す。 この季節、もう寒くもないし、 畑の土の香りを感じながら、 芽を出したじゃが芋、アスパラ達との 会話も楽しく、 雑草取りにも心地よいリズムが生まれる。 |
撤退を開始する上杉軍 |
武神・毘沙門天の幡を背負って逃げる上杉軍 |
畑は菜花の花盛り、 よく耕された赤茶色の大地に 黄色の菜の花が眩しい。 大気も春の香りを含み、 こんな朝は畑で動けることが心から幸せだ。 畑仕事どころか、動くことすら 自在にならなかった長い時間が あったからこそ、二本の足で 大地に立つことも 体を使って働ける歓びも、 本物の贅沢なんだと実感できるのだろう。 そんな時間が持てた時は、 全力で山荘時間を大切に生きねば。 |
長い冬の間大地は 枯れたセピア色に押し黙る。 沈黙の中で、繰り返し湛えられた深くて遠い 記憶を探り続ける。 やがて記憶の海の底から掬い上げられたものたちが うっすらと色味を帯び、形を成し、 一斉に大地を彩る。 生まれ出るものの美しさがことさらに 胸を打つのは、大地の記憶の海のさざ波が 心にそっと寄せてくるからなのかもしれない。 <春はあけぼの>その言葉の響きのごとく 春の夜明けの美しさは、 この季節にしかない儚さと、 晴れ晴れとした明るさに満ちている。 夜明けの富士は淡いピンク色に染まり 満開の杏の花の色にも似て、 春霞みの中に溶け入りそうな気配だ。 富士まで続く幾重にも重なる山並み。 目の前の小倉山はまるで幼子の はしゃぐ笑い声のようで、 柔らかな生まれたての緑の初々しさが、 山肌をふっくらと微笑ませている。 |
勝利宣言した武田の多田淡路の守軍に混じって仙人は何処へ! |
李(ソルダム)の銀と桃の淡黄色が山荘の春を謳う 4月16日(日)晴 山荘ゲート前 遠ざかるほどに蒼みがかる山脈は薄紫のグラデーションを描き、 望める世界の総てが仄かな曙色に覆われ独特で静謐な空気感に包まれている。 太陽が顔を出すと、大地も山も空もハミングしながら命あるものを慈しみ慰撫する。 長い冬から解き放たれた数多の生命が、一斉に太陽に向かって両手を掲げ歓びの歌を口ずさむ。 誰かが何処かで大きな声で「お帰りなさい!!」って叫んでいるような、 空気そのものが瑞々しい生命の歓びに満たされ溢れだしそうな予感に輝いている。 |
大皿2枚中皿2枚 |
フォルムが不自然で悩む |
|
命の塊だったんだと思う。 歳月を重ねた今、 生まれ出る命の形に しみじみと目を凝らし 耳を澄ましてみたいと思う 自分がいる。 |
実用一点張で面白くない |
潰そうと思ったが焼いてと懇願され? |
三つ葉躑躅も桃に負けじと赤紫の光を 4月16日(日)晴 山荘前庭から 山荘の高みから富士に向き合い、盆地を見下ろし、幾多の自然と共に大空の下で 生きているこの時間こそ掛け替えのない瞬間なのだ。 やがては春霞のように何もかもが曖昧になり輪郭のない世界へと消え去るのだろう。 いつか大地の記憶に融け入るであろう己の命の滴を、 今は大切にしたい。 |