196の2ー2022年 弥生
微睡む仙人山の早春賦 2月19日(土)晴 残り雪、足音だけが追いかけてゆく 早春の夢 柔らかく降り注ぐ早春の光の中で、眩しく輝く残り雪の白さ。目を細めている内に、ふと訪れる微睡みの心地よさ。 微睡みの夢と現のあわい、物語はそんな曖昧な境界上に生まれる。 ちょっと出目金さんの雪だるまの雪子さんが采配を振るっています。 小枝の鞭をサッと一振りして、「まんまるまろげ、まんまるまろげろ」何やら呪文を唱えると、 あれあれ不思議。風も無いのに、小さな雪の塊がころころ走って来るではありませんか。 たちまち雪玉は大きく太って、雪の下に隠れていた枯葉たちを衣装にして、 少し不格好だけど、そんなことは意に介さず得意げに坂の途中に陣取りました。 |
融けちまうぜ! 「覚えているかい? 夏の間に仙人の畑や庭で、 大きなひまわりの花が咲いていたことを。 (おっと、小さな坊やは知らないだろうけどね。) そのひまわり兄弟の一番ちび助が、どうしたことか、 冬の間にヒョロリヒョロリと背を伸ばしてさ、 今じゃ人間の子の 小学3、4年生くらいの背丈まで大きくなったんだって。 |
「おかあちゃん、誰か来たよ!」 雪の地面の下の巣穴で、母さんリスに抱かれた坊やは、 耳聡く雪まろげの音に反応します。 「坊や、まだ春はこやしない。 お目めをつむってねんねしよ」母さんリスは、 しっかり胸の中に子リスを抱きしめました。 ピーヒョロヒョロロ♪ 大空の真ん中で鳶の鳴く声が響き渡ります。 |
そろそろ栗鼠も出て来るかな! |
森の雪まろげに微睡む栗鼠 山荘の森の彼方此方に転がる雪まろげ 森が雪を転がして枯葉も巻き込んで、雪達磨を作って遊ぶだなんて知ってたかい! 雪をまろげるので雪まろげって言うんだけど、地中に穴を掘って冬眠している栗鼠は、 耳聡くこの雪まろげの微かな音色を聴きつけて、春が何処まで熟したかなと、夢うつつに暖かな光を待っている。 |
越冬した山荘白菜! |
とうとう小さな蕾が付いたって、風の便りが運んできたんだよ。」 ヒマワリの種は、実はリスたちの大好物なんです。 お母さんリスも坊やのリスも、 トンビの話を聞くと嬉しくなって、思わず手をたたきました。 その時雪まろげの雪玉が咳払いすると、 厳かな口調で話し出しました。 「あのな、地球のもっとう~んと寒い土地で 大変なことが起きているんじゃ。 雪の仲間が知らせてくれたんじゃが、 人間たちがどうやら戦いを始めて、 爆弾が落ちてひどいことが起こっているんだと。 攻められている国の名はウクライナ。 ウクライナの国花が<ひまわり>なんじゃそうな。 今ウクライナではヒマワリは 抵抗のシンボルにもなっているらしい。 |
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きっと冬の寒い日々を乗り越えて、 わざわざ今蕾を付けた ちび助のヒョロリひまわりは、 ウクライナに希望を届けたくて 咲こうとしているんじゃなかろうか…。 平和を祈る世界中の人たちが、 ひまわりの花を掲げて 戦争に抵抗しているそうじゃしな。」 ピーヒョロロ♪また鳶が言います。 |
冬に紅葉した山茶花! |
「そういえばね、山荘の庭で いつまでも咲かずに縮こまったままで、 仙人をがっかりさせていた クリスマスローズが 二輪花を開いたんだよ。 クリスマスローズの花言葉には 『追憶』『私を忘れないで』 『私の不安を 取り除いてください』『慰め』 『安心させて』などの 意味があるんだって。 |
戦場に行く兵士が、自分のことを 忘れないでほしいと願いをこめて 恋人に贈った花だったんだね。 また、花や葉の薬効を知った古代ギリシャの人々が、 クリスマスローズを精神安定剤として 利用していたことから、『いたわり』『慰め』 といった不安を払いのけるような 花言葉が生まれたんだって。 やっぱり山荘のクリスマスローズも、 ウクライナの心配をしているんだよね。」 雪玉も言葉を続けました。 |
越冬した山荘向日葵! |
栗鼠は穴を掘って土の中で冬眠中 「それじゃあ、ロシアの人も悲しいの? ウクライナの人もロシアの人も可哀そうだねえ。」 小さい坊やが呟きます。 「そうだよ、人間はさ, みんな哀しい生き物なんだ…」そう言いながら、 雪だるまの雪子さんも雪まろげの雪玉も、 春の日差しが遍く降れば自らが 溶けて消えてしまうことを知っているのに、 お日さまに向かって祈りました。 |
「今朝も10歳の男の子が爆弾にやられて、 治療の甲斐なく死んだそうじゃ。 助けられませんでしたとうなだれる 医療者の傍で男の子のお母さんが 泣き崩れておった。 悲しすぎじゃな、悔しすぎじゃな。 今頃ロシアの雪は吹雪いておるさ。 戦争を止められない 怒りと悲しみと苦しみに咆哮しているんじゃ。」 |
ほら座禅草も出てきたぜ! |
雪も融けたぜ!そろそろ出ておいで! 3月2日(水)晴 微睡む座禅峠の老倒木と仙人 驚いたね!COVID-19でビクビクして穴に潜り込んだかと思えば、今度はオミククロン株だとか、BAー2だとか 周りの思惑ばかりに捉われて未だ冬眠を続けるだなんて! そりゃ誤解だね、栗鼠が皆冬眠するとおもったら大間違い、寒い国の蝦夷栗鼠なんざー寒さに敢然と立ち向かうぜ。 確かにCOVID-19も寒さも生命を脅かす脅威であり、その環境を断ち切ってしまえば、 生き延びることは出来るけど、断ち切るよりその環境を超越しようとする栗鼠もいると言うことさ。 栗鼠は森の木々を棲み処とする樹上栗鼠と、草原や砂地の巣穴を棲み処とする地栗鼠がいるんだ。 樹上栗鼠の多くは単独行動を好み、縄張りを持たず、巣穴に種子を保存し雪の森を駆け巡る。 地栗鼠は反対に家族を中心とした集団を形成し、縄張りを持ち冬眠して寒い冬から逃れる。 つまり自由を尊び単独行動を選ぶか、安全第一で家族に寄り添い寒さや困難を回避するか、 の決定的な違いを持った2種類の栗鼠がいるのさ。 |
咲きだした座禅草 |
前庭ではクリスマスローズも |
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ウクライナの地にも ロシアの地にも 暖かい光が満ちて、 戦いが一日も早く終わりますように… 雪の眩しさと、 煌めく陽光の中で 目覚めた私は、 涙が頬を伝う暖かさに驚きました。 |
轆轤室では色見本も咲いて! |
夢ではなくて、今、現実の世界の中で、 信じがたい殺戮の 行われていることを、ただ虚しく 見ていることしかできない哀しみに、 人間であることの哀しさに たじろぐしかできないのです。 早春の光はあくまでも美しく、 仙人山のすべてを 包んでくれるのでした。 |
芝ロードも完成したし! |
若しかすると それって《生》の根本的な 問題を投げかけているのでは! 家父長の支配する家族の下で 多少干渉されても、衣食住を 与えられれば生きていけるので良し。 とする地栗鼠。 いやいやとんでもない 縄張りなんぞ持たず、寒さにもめげず 家族の干渉や支配も受けず、 森を自由に飛び回ることこそ 生きていることの意味があり、 真の歓びを見つけることも出来る と言うもんさと樹上栗鼠。 |
鮮やか料理、出前一丁! |
やっと目覚めた栗鼠は大好物の栗を食べながら! お待ちどうさん!美味しい栗あげようか! 残念でした。タイトル間違ってます。あたしは寒さや困難から逃避しない蝦夷栗鼠の仲間なので冬眠してません。 《自由》か《経済的安定》か、つまり豊かな自由精神か、抑えられた家族制度での生活安定かですが、 樹上栗鼠から観ると、それって今、現在進行中のウクライナへのロシア軍侵攻とダブルんですよ。 強い家父長は家族を支配するだけに止まらず、暫し隣の弱い家族の土地を略奪し小作としふんぞり返る。 縄張りを無くし夫々が自らを主張する民主政治と、家父長が支配する専制政治が背景に透けて観えるような。 ありゃ、樹上栗鼠さん、それっていくら何でも飛躍し過ぎでついていけませんよ。 |
うん、聴こえるぜ! 左手の小指を立て、 通奏低音のヴィオラとチェロの音色から、 小川のせせらぎを引き出そうと構える。 複雑な撓りを見せる左手中央の3本の指は、 風が優しく撫ぜるのよと指示を伝える。 春雷が去り、鳥の声を独奏バイオリンに 謳わせるももなの指は、 更に絶妙な動きを見せるに違いない。 でも未だ1歳1か月で言葉も喋れないのに、 ももなはパパが「春」を 好きだったと何故知っているんだろう! |
何とも絶妙な指の動きに感心! パパが小さいころ好きだった ビバルディの「四季」を演奏指揮してるが如き。 右手を水平に構え、 さあ、春がやってきますよと 独奏バイオリン、第一、第二バイオリンを睨み、 |
独奏バイオリンが囀る! |
ももなの指がビバルディの《春》を紡ぎだす 初めてクラシックに反応し、ビバルディのヴァイオリン協奏曲《春》を、繰り返し聴くようになった小学生の悠樹。 心象風景に如何なる変化が生じたのか、覗いてみたいと具に動きを観察したが、 具象から抽象への関心は他に観られなかった。 キーボードで兄との「猫ふんじゃった」の早弾き競争には熱中していたが、《夏》や《秋》、《冬》や 他のヴァイオリン協奏曲を聴くでもなく、唯《春》にだけ魅かれていたようなのだ。 この部分だけが恰もDNAに刷り込まれ、1歳1か月の娘のももなに受け継がれたが如く、 ももなの指がビバルディの《春》を紡ぎだす。 唯単に幼かったころの悠樹とその娘であるももなが重なって観えただけのことなのだが、 生命の記憶はこんな風に時空を貫いて流れていくのだろう。 |