1842ー2021年  弥生

仙人山の頂に鎮魂の椅子を造ろう
3月11日(木)晴 仙人山のてっぺん

2時46分、森の静寂を破り、サイレンが鳴り響いた。
仙人は「黙祷」と叫び、ストックを握り締め、眼を閉じ不動の姿勢のまま、森の樹となった。
サイレンは2万2千の弾性波動となって、森の闇を切り裂き木漏れ日と化し
自在に空気を振動させ延ばし縮め、囁きの如き言葉を紡ぎ出し、無数に放射し
樹となった仙人の心象を刺し貫く。

2万2千の弾性波動に報いるモニュメントとして、仙人山の頂に鎮魂の椅子を造ろうと、
仙人の背負うザックには、
チェーンソー、チェーンソー修理工具、ザイルが詰められている。
1分後、サイレンは鳴りやみ仙人は誰に云うでもなく「黙祷終わり!」と叫び、
ゆっくりゆっくり、檀香梅の匂う森を登り詰めて行く。
頂の椅子が出来たなら、2万2千の弾性波動は、木漏れ日となって赤松の切り株に宿り、
なにかを仙人に語りかけてくれるだろうか!



(林野庁森林整備部研究指導課森林保護対策室より)


何故こんな立派な山頂のシンボルのような大きな赤松を伐採して、椅子にしてしまうか解るかい!
答えの1つは山荘の森に転がっている赤松が示しているんだ。
数百本の赤松が伐採され、伐採後の山荘森の赤松は厚いビニールシートで覆われ、薬剤で燻蒸され
≪松の斑髪切虫≫の幼虫は駆除された。
数本ではなく数百本もの赤松が、一気に伐採されたのだ。




均等に周囲を切り込み切口の僅かな傾きを観る
松を枯らす線虫が増殖し
僅かでも衰弱した兆候が
松に表れると≪松の斑髪切虫≫は、
松の樹体に産卵し更に線虫を増殖させ、
松を枯らし被害を拡大させる。

従って僅かでも
衰弱兆候が観えた松は、
出来るだけ早い時期に伐採せねばならない。
で、仙人山の赤松は
既に枝の殆どは枯れ落ち、
梢に少し残っているだけの状況で、
≪松の斑髪切虫≫の
棲家になってしまっている。

2つ目の伐採理由はもっと深刻で、
成長速度の早い松は
増殖率も高く他の樹木を凌ぎ、
あっという間に松森を形成するが、
こいつが枯死し隣り合う松に凭れ掛り、
冬将軍の強風に煽られると発火し、
山火事を引き起こすこと。

山荘近辺でも冬になると
自然発火と観られる原因不明の
山火事が例年発生している。
松は油脂を多く含んでいるので、
燃えだしたら消火には
手間取るので恐ろしい。
 
さて、倒木方向はどっちだ!



僅かに開いたか!

標識に倒れぬようザイル操作

3つ目は松の左に観える
山頂標識にあるんだ。
この松の枝の多くは
標識側に張り出していて、
重心が標識側に傾いていること。
山荘側の盆地から吹き上げる強風が、
枝の発育の障害となり
反対の標識側に枝が集まり、
重心が偏っている。

従って自然倒木となった場合、
この松は標識の真上に襲い掛かり、
標識を破砕する懼れあり。
仙人が山荘の窯で
焼いて作った陶板標識も、
山頂標識と共に砕け散ってしまう。


2本のザイルで上部固定

でもだからと言って、
こんな立派な頂の松を
ただ伐採するのは、何とも忍びない。
考え続けた結果、
伐採後の切り株を椅子にして、
木漏れ日となって天空からやって来る、
遠い旅人に安らいでもらえたら
赤松も歓ぶのでは!


ヤバイ!標識方向に倒れそう、伐採中止!
なんぞと
いつもの仙人の誇大妄想に
限りなく近い、願いと決断理由。
はてさて、遠い旅人たちの
弾性波動を聴きとるだけの
(超)能力を、
本当に仙人は持っているのかね!



山荘の紅梅、白梅も満開じゃ!
3月11日(木)晴 山荘瀧上のボン・シルバーと梅

ヒレステーキが手に入ったのでちょっと嬉しくなり、未だちょっと早いけど散歩に出ようかなと奥庭から、
空を見上げるとボン・シルバーの曝れ頭の白に満開になった紅梅が鮮やか。
直ぐその横には白梅が仄かな匂いを放ち咲き誇っている。
となると小倉山山麓の紅白の梅林もさぞかし匂いたち、麗しの森になっているに違いない。
よし、散歩は梅の森にしようと歩き出す。



枯れた中野椿
中野椿が死んだ!



昨年の中野椿

昨年は見事に咲き誇り、
きっと今年はもっと大きくなって、
奥庭に注ぐ池の疎水を
彩るだろうと愉しみにしていた。

大きくなった中野金魚が、
中野椿に集い、喪に服した。
金魚は疎水の瀧を昇り、
椿の枯れた葉になって、
天空に向かう。

喪に服す中野金魚




宝石のようにきれい

小鹿はそっと家を抜け出すといつもの広場までやってきました。
そこは山ねこの裁判所ですが、もう春となって、あのやっかいなドングリもいなくなったのでずいぶんと静かです。
でも山ねこは片目の馬車別当に「今日は日当たりのいいその辺の草を刈れ。」
と言いつけ、次の日には「今日はこの辺の日当たりがいいようだ、ここの草を刈れ。」と言いつけるのです。
馬車別当は(今日は裁判はないのになあ)と思いながら腰から大きな鎌を出してザックザックと草を刈りました。

刈ってみると何だか気持ちの良い広場が出来てきました。
気持ちが良いものだから山ねこは裁判の無い日にもここへ来てはたばこを吸ったりしています。
心配性の気がある別当は周りのすすきに火がついたら大変とまたザックザックと草を刈るのです。
なんだか広い素敵な広場ができました。
小鹿は夜になるとここへやってくるのです。
そして遠く街の明かりが灯るのを見ています。
特に冬の間はその灯りは宝石のようにきれいなのでした。





鹿踊りのはじまり
風もなく暖かな1030mmの
移動性高気圧に覆われた里路は、
正に早春の気配に満ち満ちて、
ただ歩んでいるだけで
とても豊かな気分。

この梅森はいつもは
小倉山に登る為に通るだけで、
奥まで分け入ったことは無い。
森の奥はどうなっているのだろうと
谷に向かって
広がる梅林に降りてみる。

雌蕊の汁を発酵させたような
甘酸っぱい妖しい匂いに
満ちた森に誘われ、
更に奥に分け入り大岩洞窟の
下の谷まで降りて吃驚!

見事な野性クレソンの群落が、
谷の真清水を浴びて
艶々と光り輝いているのだ。

実に美味しそうで観た途端、
これはヒレ肉が密かに企んだ
邂逅を装った
深慮遠謀ではと直感!



最上級のヒレ肉ステーキに、
谷の真清水が育んだクレソン、
これ以上の組み合わせはあり得ない。

早速クレソンを摘んで
袋の代わりに手袋に詰め込み、
散策は読書の丘へと。
山荘原野に出て、防獣柵の
ゲートを開いた途端気付いた。
あれっ!
クレソンを詰めた手袋が無い。
しまった!
散策途中で落としてしまったのだ。

うーん、こりゃまるで
≪鹿踊りのはじまり≫だ。
嘉十の落とした手拭は手袋であり、
嘉十の残したとちのだんごは
クレソンとなって、
仙人の胸に去来する。

本箱から宮沢賢治童話集Ⅰを
取り出して≪鹿踊りのはじまり≫を
読み始める。


野性クレソン群落発見!

食いちぎられた軍手とクレソン



があるんだよ

そして、小鹿はその小さな灯りの元で何が起こっているのか気になっています。
そして小鹿の頭の中はもうそのことで一杯になっています。
その様子をみた母さんは「もう広場に行ってはいけないよ。」と言います。
けれど、夜になると小鹿は来てしまいます。
今日も陽が落ちるとやってきました。すると、微かに人の臭いがします。

「人の匂いのする所には罠があるんだよ、絶対に近づいてはいけないよ。」
と言われていましたが、他にいい匂いもするのです。(これは本当にワナなのかな?)(金気の匂いはしないようだけど。)
しかし、今日はまだ月も出ていません。(良く見えないよ。)たよりは星の灯りだけです。
(ああ、人の匂いの奥には不思議な匂いもするのに。)もうたまらなくなった小鹿はそっと広場に足を踏み入れてみました。
(やっぱり罠じゃないよね。)(きっと罠じゃないよね。)(今日は朝から全くの青空で雲が一つもなかったよ。
こんな日は罠なんかあるものか。)もう一歩近づいてみました。(あれはなんだろう?)(兎のあかちゃん?)
 



再び仙人山の頂へ
3月13日(土)晴 山荘テラスからの雲海

とっても、とっても嬉しい。
頭の中では伐採した赤松巨木を高さ45cm程に切断して、中央の切り株の周りに5本並べて、
森の椅子にしようなんぞと考えていたが、伐採だけでも出来るかどうか解らんのに、
伐採した倒木から更に5脚の椅子を造ろうだなんて、何考えてるんだ!
とこのプランを思いついた時から実現率1%未満と、仙人の浅はかさを嗤っていたのだ。


先ず標識を掘り起し

倒木位置から移動し

が結果として見事に
頭の中のプランは
実現したのである。
最大の問題は
伐採後の巨木をどうしたら、
切断して丸太に出来るかである。

隣の樹木に倒れ掛かった巨木は、
太い幹を地面に置き、
1トン以上はあるらしき重量を横たえ
斜めに傾いでいる。


伐採後に標識を埋め直す

これに上からチェーンソーの刃を
入れると、
地面に接している幹と
樹木に凭れ掛かっている
梢の双方が、当然ながら下に落ち、
切断面を圧迫する。

つまりチェーンソーの刃を
1トン程の力で圧するので、
チェーンソーは動かなくなるどころか、
抜けなくなってしまう。

これを回避するには
倒木の下にジャッキーを入れて、
巨木を切断部の下で
支えねばならない。

稜線を塞ぐ倒木も伐採じゃ!
いつもはジャッキーの代わり
丸太を入れたりしているが、
こんな巨木には
丸太の支え何ぞ役に立たない。
大体この頂には
そんな丸太なんぞ転がっては無い。

そこで寝乍ら考えたのは、
切り込みの微妙な間隙変化を
観察しながら、丸太の中央近くまで
切り込みを入れ、倒木のぐるりを
切り込み、上部の切り込み間隙が
狭まった時点で横からの切り込みを
徐々に深くしていく。



人間の使う
手袋

(兎の赤ちゃんなら遊んであげるのに、これはちっとも動かないよ。)
(兎の匂いでもないよ、でもああいい匂い。)(もっとそばに寄らないとわからないよ。)
その時、細い細い消えかけの月が出て、そっと広場を照らしました。
(あれ、これはキツネの坊やが言っていた手袋じゃないのかな?)(そうだ人間の使う手袋だ。)
(それにしてもいい匂いだな。)小鹿は手袋に近づきました。暫く眺めていましたが、何も起こりません。
良い香りはどんどん強くなってきます。小鹿は前足でその手袋をそっと突いてみました。

何も起こりません。そのうちたまらなくなった小鹿はとうとう手袋をガシっと齧ってみました。
(あれ、中から何か出てきたよ。)(いい匂いはこれだったのか。)。
手袋の中には良い匂いの草が入っていました。小鹿はガシっと齧りました(うーん、手袋の草なんて初めてだ。)
(爽やかだけどちょっと苦い、これは大人の草だな)
小鹿はその苦い草を少し噛んでから、寝転がりその草の香りを首の辺りに沢山こすりつけました。
小鹿はなんだか大人になったみたいだと思いました。
そして、今日は街の灯りも見ずに真っすぐ母さんの元に帰りました。

  



スコップがぶつかって、どっこいしょ!

可能ならば倒木下部から
チェーンソーを上下逆にして
切り込みたいが、チェーンソーの刃を
上向きにして使用することは
最も危険な動作であり、
実際試みても出来ないのだ。

 従って横から切り込みを
深く入れていくしか方法はない。
しかしこんな迂遠な切り込みで
切断出来るのは頭の中だけ。


でも唯手を拱いて
観ているわけにもいかず、
恐る恐るやってみたら見事失敗!
仰けからチェーンソーの刃を
切り込みに取られてしまい、
予備のチェーンソーで、
挟まれたチェーンソー部分の
巨木を切断する破目に!

それにもめげず2本目、
3本目と挑戦し
技術的な問題点を克服し、
遂に1卓5脚の
山巓・鎮魂椅子の完成!


此処も伐採せねば通れない!



仙人山の風の椅子

仙人はザックにチェンソーとロープを入れ、私もザックに予備のチェンソーを入れ山荘を出る。
最初は見えた仙人の姿が、「ここにダンコウバイが咲いている。」の言葉を最後に見えなくなった。
「ハーイ!」と返事をしてみたが、登る事に必死で近くで見ることはできず、通り過ぎてしまった。
暫くして、そういえばと振り返る。遠くから、あれらしいと思うだけとは情けない。

その上ユピテル峰の手前でエネルギーが切れてしまったようだ。
力が出ない。朝ごはんは食べてきたのだから大丈夫と自分を励ます。
何とかユピテル到着。先を見ると、仙人山が遠くに高く見える。あと40メートル登らなくてはならないのか。
山の高さを知っていても何の助けにはならないのだ。足を前に出すしかない。
もう先に仙人様は1002に到着しているはず、チェンソーの音がするかと耳をすましてみる。

遠く里の方では音がするのに、仙人山からは何の音もしない。
これは大変、もしかしたら伐採前の木の姿を私に見せてくれるつもりで待っているのかもしれない。
急がなくてはとは思うもののなかなか先へは進めない。やっと近づくとチェンソーの音がしてきた。
私の到着を待ちきれずとうとう伐採を始めたのかと思い少しホッとする。




難しい切断!
使い古したチェーンソーの刃の切れ味は、
研いでも研いでも落ちるのみ。
山荘から離れた遠い森の中で、切れ味の悪いチェーンソーを
使うと刃の交換は出来ないし、作業能率が落ちる。
そこで新品の刃052E バー35cmを購入し、
準備万端、意気揚々として頂に向かったのだが・・・。



チェーンソーが挟まれ動かないぜ!



予想に違わずチェーンソーの刃が切断面に挟まれ、
倒木の両面から1トンもの圧力を受け、
全く動かなくなってしまった。
こうなったら予備に持参したもう1台のチェーンソーで、
喰い込んだ部分を切断するしかない。




最後の切り込みで失敗!予備チェーンソーで切断!


下敷きとなったチェーンソーの刃が、両方の丸太の
重なり部分に挟まれているのが観える。
地面に落ちた右の幹を切断しても刃は抜けない。
そこで丸太の移動を試みたが、
驚いたことにピクリとも動かない。

切断した丸太を伐採した樹のぐるりに置いて、
椅子にするには、更にもっと切断して
丸太を切り出さねばならぬが、こりゃ至難の技。
が、やるっか無いぜ!
森の樹に靠れ掛かった上方の幹が、切断面にスライドし、
落ちた瞬間に、地面に接した幹と重なり、
チェーンソーを挟んでしまうなんて全くの想定外。
重なり合った部分を切断し、丸太の下敷きとなった
チェーンソーを救い出さねばと、切り込みを入れる。

チェーンソーの刃が下敷きとなっているもう1台の
チェーンソーの刃に当たり、途中から切り込みが出来なくなる。
この僅か数㎝の重なり部分を、どうにか慎重に
10分掛けて断ち切る。 

 
1脚で60kg以上あり動かない!


想像を越えた巨木と格闘

ところが頂上に着いてそのような甘い考えは全くなかった事がわかる。仙人は想像を越えた巨木と格闘していたのだ。
これは松のメタセコイアだ。これは記録に残さなくてはと思った瞬間、写真を撮るよう指示される。
写真は何処で撮ったらいいのだろうか。この巨木は何処に倒れてくるのか。
写真を撮るのに安全な場所は何処か、考え考え近くの木の影から何枚か撮ってみる。
すると、仙人は「いろいろな角度から撮れ!」と言うではないか。キャーやってきました。山荘名物命の危機。
木のてっぺんを撮ろうとすると伐っている姿は入らない。 何しろ巨木なのである。

仙人は巨木のあちこちにチェンソーで切り込みを入れている。木の影に入ると全く姿が消えてしまう。
姿が見えた所でシャッターを押さなくてはならない。その内チェンソーで切り込みを入れた所がふわっと浮いた。
それは倒れてはいけない方向へ動いたようだった。この巨木は山頂の表示板の方向に倒れようとしている。
それは避けなければいけない唯一の方向なのだ。
その為その反対側に倒れるように仙人は伐採の前にロープを張っていたのだが、そのロープが全く効いていない。
その松の巨木は上部に枝がある。その枝が表示板方向にばかり伸びているのだ。その上太い幹も真っすぐではない。

表示板方向に少し曲がっている。この伐採の困難は小倉山の比ではない。
小倉山では木が倒れる時ドドドという地響きがして驚いたが、今回はその何倍もの巨木なのだ。
恐ろしくなる。とりあえず、一時撤退である。少しホッとして、山を下りる。


 



1卓5脚が完成!

バウムクーヘンの最初の客黄立翅

美味しそうなバウムクーヘン!

森を透かして牧丘の里が観えるぜ!

あら、このバウムクーヘンいい香り!

≪ようこそ、黄立翅さん!≫

丸太椅子の最初の客が、
寒い寒い冬を
耐え忍んで生き抜いてきた
越冬蝶のキタテハだなんて
実に嬉しいね!

翅の末端がボロボロになって、
悪戦苦闘を物語っているね。
よくぞ生きていたね。

樹液も美味しいわ!



る仙人、遂にやったぜ!


スコップを背中のザックに括り付け、
今度は両手に活躍したチェーンソーを振りかざし、
凱旋の儀式かい!
問題は仙人の望みが叶えられるかだな!

≪2万2千の弾性波動は、木漏れ日となって
赤松の切り株に宿り、
なにかを仙人に語りかけてくれるだろうか!≫

森の静寂に耳を欹て≪想い≫を聴くには、
暫くこの仙人山のてっぺんに
通い続けねばなるまい。
おいおい!、丸太の上で片足で立つだけでも
危ないのに、右手でスコップを高く掲げ、
左手で重いチェーンソーを持ち上げ、
その上、左脚をそんなに高く上げて踊るなんて、
いったい、仙人はどうしちまったんだい!

 
2台のチェーンソー大活


さてこの赤松はつになるんだろう!
3月13日(土)晴 56歳で椅子になったんだ!

そうか、こいつ仙人が20歳の時に、この名もない標高1002mの頂で産声を挙げたんだな!
12歳位までは毎年1cm近く、ズンズン大きく育って、山荘が出来た前後に再び成長速度が早まっている。
暖かい冬と雨量が多かっただけのことなのだろうが、
ふと仙人の希望が、そのやや広い年輪に重なって観えるような気もする。

そう、仙人は名もない小さな山の頂で、命を絶って椅子になり、
数年に1度程しか訪れないだろう山の旅人が来たら、坐ってもらえないかなと思っているらしい。
地図に登山道も記されていない、この小さな山に来る人は、きっと静かな山が大好きで、
若しかしたらこの椅子に坐って、静けさの中に仙人の朧げな心象風景を見つけるかも知れない。
それまで松喰い虫にやられぬ様、防虫剤を塗って上げようかな!
なんぞと仙人は思っているに違いない。



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