175の1ー2020年 水無月
仙人、とつじょ母親になるの巻 5月31日(日)曇 ログテラスで小鹿に乳を呑ませる仙人 一昨日扇山稜線で雷雨が始まりP2峰から引き返そうと思いつつ、そんなひ弱なことでどうすると雨の中、仙人山まで達し下山。 昨日も雷雲が高芝山に立ち込め、山荘上空にやって来るのは時間の問題と覚悟を決めて、再び仙人山に向かう。 扇山峠の手前からポツリ、ポツリと降りだすが、 めげずに岩のゴロゴロしてる屈曲点近くまで差し掛かると、何だか心細げなミャーミャーと鳴き声が微かに聴こえる。 何だろうと森に目を凝らすと、 森の枯れ枝や葉に紛れて小さな未だ生まれたての仔鹿がヨタヨタ頼りなさそうに歩いているでは! 近づくと逃げようともせず近寄ってきて、差し出した仙人の指に、クンクンと鼻を寄せる。 母鹿と間違えているのか、母鹿とはぐれて淋しいのか、人を懼れる風もなく近寄って来る。 ミルクでも飲ませてやろうと山荘まで連れ帰ることにした。 作陶小屋の奥にある書庫に入れ、毛布を敷きミルクを皿に注ぎ飲ませてみたが、臭いを嗅いだだけで飲もうとしない。 入口を開けたままワイアメッシュで閉じて先ず一晩様子を観ることにした。 |
試しにスポイトでどうだ! となると生み落とした直後、 血の臭いを嗅ぎつけた肉食獣に襲われ、 母鹿が逃げたとも考えられるが、 それでは歩けない仔鹿が餌食にもならず 残されているのはおかしい。 第一この辺りの森では鹿を襲う肉食獣なんて居ない。 天敵である狼はとっくの昔に絶滅したし、 今、鹿を襲うのは人間くらいかな! なら、考えられるのは母鹿の育児放棄以外にない。 もしや近くに出産後の胎盤の痕跡など ないか探したが見つからない。 きっと外敵を懼れ、白い羊膜ごと総て母鹿が 食べてしまったのだろう。 出産直後の仔鹿は数十分で立ち上がり 黒っぽいが、母鹿に嘗められて 鹿の子斑が現れる。 |
育児放棄か! |
ごっくん、ゴックン! |
扇山峠下でミャーミャーと |
一晩経っても母鹿が来た気配無し! |
あれ、未だ生まれたばかりかな! |
立ち上がれない状態ではあるが、 鹿の子斑は出ているので 生み落とした直後は、母鹿も 少しだけ嘗めたりしたのだろうか! いずれにしてもこのまま放置して置けば、 降りだした冷たい雨に打たれて 今夜中に死んでしまう。 連れ帰ってミルクを飲ませ、 母鹿の眼に着き易い森の中の 書庫にでも入れて、中が見える様に ワイアメッシュで囲って置けば、 夜に母鹿が来るかもと期待を懐く。 毛布を敷いて寝かして置いたが、 朝になって 書庫に出向き覗いて観ると、 ワイアメッシュの格子から抜け出し、 |
陶房に出てミャーミャーと 小さな声で鳴いている。 母鹿の足跡は見当たらず、 ワイアメッシュに触れた様子すらない。 毛布には糞や排尿の跡は無く、 母鹿が授乳していた形跡はない。 何も食べてはいないのだ。 先ずは何とかミルクを飲ませないと、 と焦ったが哺乳瓶もミルクも無い。 差し当たり仙人の飲んでいる牛乳を 温めてスポイトに入れて 飲ませてみることにした。 最初は抵抗したが、何度か 口に持って行くうちに ゴクリと飲んだでは! やったぜ!嬉しかったね! |
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書庫に毛布を敷いて! |
庭に出したら後を着いて来る |
哺乳瓶の代わり油差容器でどうだ! 6月2日(火)晴 奥庭仙人瀧前で小鹿に乳を呑ませる仙人 しかしスポイトで飲んでも高は知れてる。もっとたくさん飲ませないと死んでしまう。 そこで哺乳瓶になるような、スポイトの親分みたいな物が山荘にないか彼方此方物色してみたら、 目に付いたのは釉薬を入れた油差の容器。 瓶ブラシでしっかり洗って、ミルクを入れて濯ぎ、飲ませるミルクを人肌に暖め、さあどうだ! スポイトと異なり今度はミルク量が一気に増えたので、仔鹿も慌てふためき口の周りに飛び散らしたり、 口からノズルが外れたりと難儀したが、やがてゴクゴク音を立てて飲みだした。 |
書庫から引越しじゃ! |
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此処で野菜の種と一緒に! |
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さて次なる問題は、 果たして牛乳を仔鹿に与え続けて いいのだろうかと云う疑問である。 そこで鹿の乳成分と牛乳成分を調べたが、 牛乳は無脂乳固形分8.0%、 乳脂肪分3.5%とあるが、 蛋白質、脂質、炭水化物、食塩、カルシュウムは g表示で、%に換算すると 夫々0.68 ,0.76 0.95, 0.02, 22.7となってる。 |
鹿乳成分は解らず結局 較べようが無いが、もしや ペットの犬用ミルクなんてものが ホームセンターには在るのではと、 電話で問い合わせたら、有った! マミール子犬のミルク250g1958円、 原材料は脱脂粉乳、植物性、動物性油脂、卵黄粉末、 大豆蛋白質、オリゴ糖、Lカルニチン、ミネラル類、 乳化剤、ビタミン類、香料、タウリン と表示されている。 |
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うん、気に入ったわ! |
ストックの革帯で首輪を! |
牛乳より犬用の粉ミルクが良いかな! |
鹿は牛よりも犬に近いのではと、 勝手に判断し 早速飲ませてみた。 2、3回与えたら飲み慣れてきたが、 便は黄色くなりやや下痢便気味。 合わないのか、 慣れていないだけのことか、 与える量とか 乳温に問題が在るのか! うーん、悩むぜ! |
どうだい、犬用は! |
長いノズルを咥え込み 可愛らしい小さな舌を 紅いノズルに絡ませグイグイと 吸い込む。 母親と認識しないと 仔鹿はミルクを飲まないので、 仙人はこれで 目出度く仔鹿の母親になれたのだ。 |
ちょっと薄めにしたけど、どう! |
肛門マッサージ |
牛乳の最初の糞 |
さてそうなると心配なのは排便。 未だ一度も便通が無い。 このままでは糞詰まりで死んでしまう。 母鹿は仔鹿のお尻を甞めて排便を促す。 そんなら肛門の辺りを マッサージしてやれば、糞が出るのでは! ゴム手を嵌めてマッサージしたら、 直ぐ便が出始める。 |
見慣れた黒くて丸い鹿の糞では無くて、 不定形のやや黒みを帯びた黄土色。 量は10g程だが、これで口から 食道、胃、大腸、肛門が繋がったので、 仔鹿はどうやら 生き延びられそうだと一安心。 母鹿の真似事をしてみて仙人は、 うーん、母は偉大だ! と改めて母性本能の 為せる業に感心したのだ。 |
やや下痢気味か! |
やっと自力で便通 |
さあ、散歩に行くぞ! 6月2日(火)晴 ゲート前の箆鹿の角の上で 夜の間に母鹿が来て仔鹿を連れて行ってくれるのではと、 哀しい別れを覚悟しつつも半ば期待しているのだが、さっぱり気配を見せない。 温室の入り口も母鹿がちょっと押せば、ドアにしている簀子のつっかえ棒が 簡単に外れ開く様にしてあるのだが、夜中に来た様な痕跡は全く無い。 |
ストレッチして出発! かと云って今、森に放せば 例え母鹿に回り逢っても、人間の臭いの付いた仔鹿に 授乳し育てるとは考えられない。 うーん、矢張見つけた時点で、可哀想だが こいつは母に捨てられ、 生きてはいけない運命にあったのだと、 冷たく突き放すべきだったのか! どう思い惑おうが確かなことは唯1つ、 今は全力を尽くして育てること。 |
となるとこれから授乳期が終わるまで 3カ月もの長い間、仔鹿を育てなければならない。 森に放つには離乳食が食べられる様にし、 更に森のどの木が、葉が食べられるのか 教え訓練せねばならない。 仙人は目白に帰り、肺や心臓の検診を受け、 手術するとなれば入院し、山荘を空ける日が続く。 となるととても森に放つまで仔鹿を鍛え、 食事を与え続けることなんて不可能! |
ついて来るんだよ! |
此処が最初の夜を過ごした書庫だよ! だが心配なのは牛乳で仔鹿は育つのか、 であるがキキに訊いても答える筈がない。 犬ミルクの方が仔鹿には良いらしいとの情報があったので、 3日目には犬ミルクに替え、これで一安心。 犬ミルクの分量は当然ながら仔犬の体重によって異なる。 そこで仔鹿キキの体重を測ったら3.9kg。 ミルク缶や説明書に書かれた表を観て、3.9kgに近い 小型犬3~5kgの日令1~5日の欄より 貼付スプーン1杯5gと決定。 |
スポイトから牛乳を飲ませ始めて2日目には 200cc容器に替えたが、食欲旺盛で 一度に200ccを飲み干す様になった。 ヨタヨタ歩きだった仔鹿が 庭を走リ回る姿を目の当たりにして仙人は大喜び。 仔鹿をキキと名付けて庭を散歩したり、 森の探索に出かけたり仙人は、 野良仕事そっちのけで、キキと遊び惚ける。 |
ジョン・シルバーにご挨拶! |