《B》 神秘なる降光


光のPantheon
2013年4月3日(水)晴 Rota Hole


ダイブコンピューターの記録より

DVbS66(DV回数) 2013年4月3日(水)晴 Rota Hole
Entry Time・11:02 Exit Time・11:59 潜行時間・57分
 
残留窒素:7/9  
浮上速度:赤警告3回 
水深Max:16.8m 平均深度:12.2m
 水温:28.5℃
 使用タンク:アルミ12g:200気圧
 最終残留空気:30気圧

潜行メンバー:村上、坂原、ガイド1名 計3名 他にダイバー無し


 ずいぶん世界のあちこちで大小の海底洞窟に潜り
その神秘的な光に魅了されてきた。
ロタ島の海底洞窟もそれらと同じでちょっと規模が
大きいだけなのかなと思っていたが
予想を遙かに超える光の神秘性との邂逅に唯驚き!

先ず1回目のDVでこの洞窟の構造が
今まで潜った洞窟とかなり異なることに気付いた。
洞窟は陸から離れた海底にあるのではなく
陸の断崖の海面下に穿たれている。
洞窟は内陸に向かって大きく口を開きダイバーは
海から陸内部に侵入するような潜行となる。

断崖の上は谷になっているので光は
海面に届く前にこの谷によって
収斂され更に大地の裂け目によってピンホール効果を受け
より鮮明に射し込むだろうと直感した。
となるとロタホールは今までの海底洞窟とは
全く異なる光のパンテオンを演出し
天空の神々の回廊となり
心象風景を鮮烈に支配し
私を打ちのめすのではないかと期待は膨らんだ。

しかし谷と裂け目のピンホールに光がやって来る時間は
最も太陽高度が高くなる
正午を挟んだ時間帯だが現在では4時間程しかない。
つまり午前DVなら2本目、午後なら1本目が
その時間帯になるので
これに合わせて船を出さねばならない。

1日目の午後1本目は曇天で光が射し込まず
2日目の2本目はスコールに遭い
いよいよ追い詰められ最終DV、3日目の午前2本目に
最後の期待を賭けて東港から船を出す。
夜明けから雲1つ無く絶好のロタホール日和だったが
午前中1本目DVを終える頃には
東の空に黒雲が湧きだし早くもスコールの気配。

大地の裂け目から海底洞窟に降る光 ロタホール 2013年4月4日(木)晴

思わず祈りたくなる光 ロタホール 2013年4月4日(木)晴


20m程穴の奥に進むと穴の一番先に
幾筋もの光の縞を描いて
光のパンテオンが
漆黒の闇を切り裂いて耀いているでは!
コンバージョンレンズ(広角)をセットし
思いきりパンテオンに接近し鮮明度の高い画像を狙い
シャッターを切ろうとしたが
デジタルカメラは赤い警告マークを発したまま作動せず。

焦る!
この瞬間の為に電池交換し交換レンズを用意し
万全の態勢で臨んでいるのだ。
よりによって何故この瞬間にカメラが作動しないのだ。
3台も同じカメラを購入し10年間も愛用し
知り尽くした海中専用カメラ。
それが何故この瞬間に裏切るのだ!

あれやこれやとハウジングのボタンを押しまくるが
レンズは出るものの出た後で
赤い警告マークが点灯しレンズは引っ込み
スイッチが切れてしまう。
うーんこのシャッターチャンスを逃す訳にはいかない。
よし、村上のカメラを借りて交互に
モデルを務め撮り合うことにしよう。

誰も居ない光のパンテオンに飛び込み10分、20分と
ただ舞い続け、撮り続ける。
前回出港した西港は波静かなフィリピン海に面しているが
太平洋に面する東港は波高く船は
波頭に乗りあげスコールの来る前にと心は焦るが
遅々として進まず。
ソサンハニヤ湾を出ると外洋の荒波に揉まれ
其の都度、舳先を荒波に向けるが
船はロッキング、ローリングを繰り返しつつ
どうにかハルノン岬を回りロタホールの入り口に到着。

時々雲間に隠れるものの光はロタホールの真上から
透き通った蒼い宝石を刺し貫いている。
宝石の底で光が鱗のような紋様を描き手招きする。
急いで空気タンクを背負いカメラ、マスクをセットし
レギュレーターを銜え
バックロールで3人一緒に飛びこむ。

海面近くは流れがあるので流される前に
一気に15mまで潜行し
目の前に大きく口を開けた暗く巨大な穴に
静かに近づく。
穴は長いのでこの位置からはロタホールに光が
射し込んでいるかどうか未だ解らない。

遙かなり飛翔 ロタホール 2013年4月4日(木)晴 



ロタホール入り口
 
洞窟内部
 
洞窟奥天井の2つの穴
 
海底に射し込む光
この小さな洞窟に凝縮された闇が
開闢直前の
一点に収斂された宇宙であると
遥か以前に知っていたのだ。
この光に逢うまでは
知っていたことを忘れていたのに
どうして思い出したのだろう。

あーその認識は言語を通して
聴いたり書物から
得られた認識とは全く異なっている。
60兆個の細胞の1つ1つが
一瞬鋭敏なセンサーになって
瞬時に知覚してしまう認識なのだ。

137億年の存在の記憶を
瞬時にして遡り
時間と空間が1点に収斂された
あの懐かしくも狂おしい
高温高密度のカオスが
デジャビュとなって
今、心象風景に投影されたのだ。

 ・
やっとたどり着いたね。
ここが総ての始まりと終わり。
 
光に向かって浮上
 
降り注ぐ
 
天空のホワイトホール




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