仙人日記
 
 その112の42015年  弥生

3月4週・・・麗しい蘭の【春の生殖講義】

春じゃ!生臭き生殖
巨大蝦蟇ガエル出現 3月23日(月)晴 山荘池

実に長ーい眠りであった。
石垣の間に穴を掘って、枯葉を敷き詰めフカフカのベッドを作って、入口も枯葉で塞いでおいたんじゃ!
まー入口は放っておいても、ずんずん枯葉が積もって自然に閉じるから
塞がなくてもいいんじゃがね。
その暖っかい穴倉で【春眠暁を覚えず】なーんちゃって、とろとろしてたら、入口の枯葉が
がさごそと動き出して春の光がやって来たんじゃ!

きっと仙人の奴が、熊手なんかを持って枯葉を集め出したもんだから、光がやって来たんじゃ。
4か月以上何も食べてないから、腹もペコペコだが、先ずは
池に飛び込んで、お清めしてから、生殖じゃ!
さて雌どもは、もう目覚めておるかな?それとも未だ暁を覚えずかな?



未だ寒みーぜ! 

でも芝だって芽を出し始めたぜ! 
「はてさて、
どうしたもんかの?」
益々脳の中身の薄くなった
仙人が何やら
悩んでいるというか、思索中と
云うか、一応
何やら考えているような。

斑惚けに陥っている仙人の
話しをよく聴いてみると
どうも白昼堂々
じーっと動かず交接を
続ける蝦蟇ガエルを
心配しているらしいのだ。

さあ、星を生むんじゃ! 
仙人は思う。
こいつ図体が大きくて
ノロノロしてるように見えるが
実は繊細で用心深く
ちょっとでも人間の気配を
感じると
意外と素早く逃げ去る。

啓蟄が過ぎて先週から
山荘池に姿を
現し始めたこやつを撮ろうと
狙っていたのだが
カメラを向けただけで
池の浮島の下に
潜り込んでしまい撮れない。

おい隣に敗けんな! 
其れなのに一旦交尾に
入った途端
ご覧の通り、全然動かず。
これじゃ
あの恐ろしい鷹の仲間の
ノスリにでも見つかったら
一巻の終わりじゃ。 

ギブアップじゃ! 
だいたい排便中とか
交接中は無防備になり
素早く逃げ去る
ことが出来ないので
人間だって、動物だって
隠れてひっそり
短時間で、やるのだ。

それなのに
どうやら先ほどから
繋がったまま。
セキュリティーは
どうなっておるんじゃ?

と仙人は頭を
悩ませているらしい。

ヘッドロックしてどうすんの! 
そこで仙人め年の功か
臆面もなくラブラブ中の
蝦蟇ガエルに
訊いてみたらしい。

「そんなにいつまでも
陶酔の極地が
続いているのかい?
でもさ、いつまでも
浸っているとヤバいぜ!
敵はノスリだけじゃなくて、
ほら、先日現れた
黄鼬(キテン)、狐や狸だって
狙ってるぜ」


夜明けの寝室に咲き乱れる
君子蘭は語る:最長で9日間だって!あたしなんか1カ月も花開いているのよ!

「ふふん、相も変わらず惚け仙人は、なーんも知らんのじゃな。
よーく聴くが良い。わしらの交接時間が長いって?
山荘に現れた黄鼬にでも訊いてみるが良い。【どの位なさっているのでしょうか】と。
人間と同じ哺乳類の黄鼬だって平均2~4時間で、頑張っている奴なんか、最長8時間にも及ぶ観察例があるんだぜ。

驚くなよ、昆虫類の中のカメムシという連中、あのくさい臭いを出す奴らなんて、
むやみに交尾時間が長くて平均して3日間で、最長では9日間だ。
どうして、そんなに長いか不思議だろう?
その味噌漬の味噌にもならん仙人の脳味噌で、よーく考えてみるといい」

びっくり仰天! この蝦蟇ガエルめ、とんでもないことを云うではありませんか!
と、どうでしょう。
寝室で今を盛りと咲き誇る君子蘭が、蝦蟇ガエルの薀蓄に冷笑を浴びせつつ、にっこり!
「ちょろいわね。9日間ですって!あたしたちは雌蕊を濡らしてから
こうして1カ月もずーっと、花粉との受精を愉しんでいるのよ。レベルが違うわね」




日本水仙  前庭

紅梅  奥庭
春じゃ!
麗しき生殖

さあそうなると山荘の花々も
黙ってはいません。
君子蘭の後に続けとばかり
一斉に薀蓄を傾け出したでは。

「そりゃ、植物だって
動物並に短いのもいるわよ。
そう例えば稲。
あの子たちは僅か2時間程しか
花開いてないわね。

開花時に(えい)(籾殻になるところ)から
6本の雄蕊を出して花粉を放ち
穎の中に隠れている
雌しべの柱頭に付着させる。

花粉は胚に向かって花粉管を
伸ばして受精が起こるのよ。
このクライマックス後
穎は直ぐに硬く閉じてしまい、
生殖は僅か2時間で、お仕舞い。
けれど動物もんの生殖時間より
ずーっと長いのよ」


「黙れ黙れ!
そりゃお前たち大地の
囚われもんが、幾ら生殖時間の
長さを誇ったって
所詮は、たかが葉っぱもん。
生殖中であろうが
命を脅かされることなど無いでは。
いつまでも、なんなら永遠に
生殖を謳歌してればいい。 

こちとら、大地を駆け巡り
死の危険を冒して
尚、生殖時間を競っているんじゃ!
あーあー話が
逸れちゃったではないか!。

お前たちの生殖など
どうでもいいんじゃ。
引っこんでいろ。
今問題にしてるのは、
喰われちまうかも知れぬ危険を
冒してまで何故
長時間の生殖に挑む動物が
いるのかと云うことだ」

口角泡を飛ばして
怒鳴っているのは勿論蝦蟇ガエル。

芝桜  奥庭滝畔 
 
 蝦夷錦紅白椿)  奥庭 
 
小杯水仙  前庭 


夕闇に沈む蘭と富士
3月23日(月) 1階テラスから

この恍惚とした蘭の表情を観てください。
うっとりと濡れそぼる雌蕊と、黄金の光を放つ花粉との生の讃頌。
艶めかしい蘭の吐息が、聴こえてきませんか?
あまりの艶やかさに、雪富士までが蘭の熱りに当てられて薔薇色に染まっているではありませんか!



雪に映える君子蘭  書斎 

「あら、蝦蟇ガエルさん!
随分とお利口さんで、何でも御見通しのような
口ぶりですけど
あたし見てしまったのですよ。
先日、蝦蟇ガエルさんが、山荘の本棚にあった
「動物おもしろ性態学」文庫版と
日本雑学研究会編、ISBN4-620-72099-2、毎日新聞社版

読んでいたのを」
夜明けの雪富士と蘭
3月23日(月) 2階テラスから
 
雪富士に秋波  2階イオ



卓上君子蘭  2階寝室

夜明けの蘭  2階カリスト
その蘭の言葉を聞いた 
蝦蟇ガエルの狼狽ぶりたるや
必見に値するね。
だいたい蘭は山荘に現れる黄鼬とは
お友達で何故、黄鼬が
4時間も交接し続けるかなんて
本を読まなくても
知っていたのさ。

それを、さも俺様は何でも
知っていると
云わんばかりに蝦蟇ガエルめ
薀蓄を傾けたがるもんだから
蘭にとっては笑止千万。

さてそれでは忌々しい蝦蟇ガエルから
その秘密を聴く前に
優しくて麗しい蘭に黄鼬から
聴いた話を
教えてもらいましょうか
黄鼬はこう云ったのです。

「あの排卵て、ご存知ですよね。
 もう生殖準備ができましたので
いつでもどうぞと
雌が雄を誘う性フェロモンを出したり
して雄を狂わせるあの現象です。

ラクダのように逆に
雄が性フェロモンを出して
雌の排卵を促すなんてことも
あるんだけれど、
あたし達テンやイタチやミンクでは、
性フェロモンによっての
排卵は起こらないんです。

あーもう気が付きましたか!
そうなんです、
ペニスを膣に挿入し続ける
刺激によって
初めて排卵が可能になるんです。
だから雄は雌が
排卵するまでは最長8時間にも
及ぶ交接を
続けることもあるんですよ」

里を見下ろす蘭  2階カリスト 
 
目覚める蘭  2階イオ
 
絵画と競う蘭  2階イオ


蘭とイオの朱が競って春の生を謳う

ふーん、そうだったのか!
しかしそれで蝦蟇ガエルの、やたらに長い交接時間の言い訳になるのかな?

なんぞと仙人が阿呆に独り言ちるもんだから、やはりしゃしゃり出て来たのは蝦蟇ガエル。
「おいおい、交接と抱接の区別も出来ない莫迦仙人、よーく聴けよ。
我らはだいたい交接なんぞしておらん。あれは抱接と云うんじゃ。
オスがメスを抱きかかえ、メスが体外に卵を排出するのを待っているだけじゃ。
排出直後の卵に精子をかけるその一瞬の歓喜を求めて、唯じーっと何時間、否何日だって抱き付いているのさ。
まーその間、無防備になって、外敵に襲われる危険性が増すのは、交接と変わらんがね」

こうして小賢しい蝦蟇ガエルや麗しい蘭の【春の生殖講義】を聞いて、
仙人は又1つだけ、お利口さんになれたのでしょうかね?




さて、ほんじゃ春の饗宴じゃ!

お彼岸の御萩にはちと遅すぎたが!
三角皿の命を受け御萩作り

気が付いたのだ。これは御萩ではない、卵なのだ。

卵は限定された時間に閉じ込められた生命が、生命を消去する永劫の時の流れに抗い講じた手段の産物。
まー簡単に云えば、卵は高々数十年の寿命で消去される生命が、子孫を残すと云う方法で
生命の軌跡を永劫の彼方まで曳きずらんと放たれたDNAの舟。
舟を操る船頭が乗る受精の瞬間に交わされる悦楽は、DNAの陰謀を隠蔽するためのカモフラージュ。

「そんな衒学的な言辞でもって、誑かそうとしても駄目さ。
一体全体、どうして御萩が卵なのか、それじゃさっぱりわからん!もっと解り易く説明せよ」
珍しく御萩なんぞを作り始めた仙人が呟いた一言が、
どうも山荘に巣食う住人共に波紋を広げているようなのです。
うーん、その訴え解らんでもないな。
最近仙人の脳は、回路がますます混線し意味不明なパルスが飛び交っているようだからね。



先ず小豆の灰汁だし 

灰汁を捨てて圧力鍋で 10分
三角皿が呼ぶのだ。

居間のガラス卓に
飾っておいた三角皿が、
傍を通るたびに「ねーねー、
何か和菓子の様な
美味しいもの載せてよ」と
声をかけて来るもんだから、

お彼岸は過ぎたけど、
御萩を作ってやることにした。
灰汁だしで煮立ててから、
湯を捨て
更に圧力釜で10分煮て、
そのまま水分を取る為
弱火で加熱。
ヘラで煮立てた小豆の中央に
分け目を入れる。

その割れ目が餡子の
海によって塞がれる僅かな時間が、
御萩に適した粘度を決める。

早いと柔らかすぎて
御飯に載らない。
遅いと固くなってボロボロになり、
これまた御飯に着かない。

ヘラで掻き回しながら、
モーゼが出エジプト記で
海を分ける場面を思い出した。

【モーセが手にもっていた杖を
振り上げると、
葦の海で水が割れたため、
イスラエル人たちは
渡ることができた。
しかし、後を追って紅海を
渡ろうとしたファラオの軍勢は
海に沈んだ】

先に通るイスラエル人
は渡れるが、
僅かに遅れるファラオは
呑み込まれてしまう
その時間こそが
御萩に適した餡子の粘度を
決定するのだ、なんぞと
一人悦に入ってるのである。

弱火で水分を取って 

ラップに餡子と握飯を乗せて 

最後は茶巾絞りじゃ! 


絞り過ぎで豆が潰れた

出来上がり

そこで再度小豆を載せて

新たに山荘住人となった
三角皿なんぞの
愛らしい希望に沿って
御萩を作ったって!

そんな綺麗ごとな御為倒しを
並べたって駄目さ。
さー、御萩が何故卵なのか
その心象風景とやらを
話してもらおうじゃないか。

どれも美味そうで涎だらだら 
 しどろもどろの仙人は語る。

「あのね、【春の生殖講義】を聞いて
ふと疑問に思ったんだ。
生命は排卵をめぐって生殖に
励むのに
人間はどうして排卵と無関係に
生殖に勤しむのだろう?

そうか悦楽の瞬間を求めて
疑似排卵するんだ!

山茶花の紅も良し  

あたしも食べたい!
 
菜花も嬉しそう 


疑似排卵なんて
若しかすると人間だけでなく
他の動物もしてるかもと
調べたら
おりゃ!猫がやってるでは!

猫はテンやイタチやミンクと
同じように交接後に
排卵するんだ。
従って発情期になると雌猫は、
排卵する為交接を
求めてぎゃーぎゃーと
けたたましく喚き立てるのだ。

あんまり煩いので
その雌猫をと捕まえて膣に
綿棒を入れて2,3回
回してやると排卵して
猫は静かになってしまうとか」
 

骨付きラムと畑のブロッコリー&クレソン
どうも老化現象が
激しくて仙人の云う事は
信用ならんと、山荘住人達は
早速、書斎のPCを開いて
ネットで疑似排卵を
調べたのです。

どうでしょう、本当なのです。
しかし人間は
疑似排卵なんてしません。
性交とは無関係に
定期的に排卵します。

ははーん、そうか
仙人の云う疑似排卵の卵は
実際の卵子でないんだ。
生命の軌跡を永劫の彼方へ導く
悦楽の齎す幻想なのかも?

だとしても、どうして
御萩がその卵になるんだ?
やっぱ、仙人は変だ?


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