仙人日記
   その892013年卯月

4月2週・・・春暁と鹿角ー春暁絵画4点 

放射せる春暁 
4月14日(日)晴 山荘日の出5時55分

60枚の芝を植え替えた中庭の散水をしようと、ゲートにある散水栓を開き中庭に戻ってみると
今正に太陽が小倉山から昇って来る瞬間。
躑躅の木に取り付けられた散水器から激しく噴射する水滴が紅いルビーの輝きを発し、小倉山の漆黒の翳に踊る。
未だ淡い翳に包まれた高芝山は蒼い燐光を放ち、紅いルビーと鬩ぎ合い春の暁を謳う。
あんぐり口を開けたまま暫し佇み山翳に踊る紅いルビーを見つめ続ける。

あーこんな風にして春がやって来たことを君達は教えてくれるんだね。


蒼い宝石と化した山と空
 
える小倉山と鹿角&散水

水仙の夜明け
山荘食卓

モザイクとなった春彩

山吹を貫く曙光
山荘食卓

中庭の芝張り
3月25日(月)曇 前庭、中庭


重いを一輪車で運ぶ
下水管設置で掘り起こされた中庭の
土が固く締まったので
更に土を追加し谷側に石垣を積み
中庭を平らにし芝植え付け準備完了。

「こりゃサービスしますよ。
秋にはやってやるなんて云っといて
遅れてしまったから」

「そう、それじゃせめて
今朝採れた
山荘のほうれん草でも持っていく?
柔かくて美味しいよ」
「ほな、貰っていくわ
ご馳走さん!」

にやるつもりだったんだが!

石垣組んだら次は

トラック1台で足りるかな?

石垣の上に入れてと

えっ!金いらんって!
それじゃお礼にほうれん草
でも
「原野を開墾しようと
計画してるんだけど境界が
はっきりしないで困っているんだ。
図面渡すから境界を確認して
金網柵を設置する見積もりを
出してくれないかな。
で原野を何に使ったらいか
何かアドバイスない?」

「そりゃ牧場にして鹿でも飼ったら」

さて芝は巧くくかな


花々に包まれる山荘
4月11日(木)晴〜 前庭、奥庭


水仙ともお  前庭

片栗最後の一輪 前庭

チューリップがきだす 前庭
中々の重労働なのだ。
鍬を振るって雑草を採り
重い有機肥料を運んで畑に撒く。
それから耕運機を掛けるのだ。

平地なら楽ちんなのだが
山荘の畑は山の斜面なので
耕運機を自在に操るのは
技術だけでなく力も必要で
そうたやすいことではないのである。

陶芸皿、水晶、花のらい 前庭
長時間畑作業を続けると
腰は痛くなり、振り上げた鍬から
落ちる土で泥まみれになり
靴内に侵入した土で歩き難くなり
作業は暫し中断される。

従って山荘大好き人間にも
畑仕事は敬遠され
精々1,2時間もやれば飽きられ
やがて畑には近づかなくなる。

池には山吹が花盛り 山荘池

扇風機のような雌蕊 前庭

あれ!八重の水仙だ! 前庭
 
正に貴婦人そのもの 前庭
 
辛うじて残った芝桜 前庭
 
芍薬と間違えそうなチューリップ 前庭
 
解るかな?の花じゃ 葡萄畑
汗塗れ、泥まみれになって
畑から上がってくると
前庭、奥庭で待っているのは
可憐に咲き誇る花々。

「ごくろうさんでした。
太陽光のお風呂で汗と泥を落として
よく冷やした麦酒でも
召し上がりながら私達が謳う
春の讃歌をお聴き下さい」
 
 
石楠花もいつの間にか満開 奥庭
 
畑は一面にの花 葡萄畑
 
錨草もひっそりと石垣に 山荘池
 
芝生の、蒲公英も 奥庭




上条山の稜線に群落する
三つ葉躑躅の彼方の南アルプスが・・・
4月13日(土)曇晴 上条山


不意に色彩を持たない氷雪あるぷすが、咲き誇る三つ葉躑躅を前に彼の巡礼を語り始めたのだ。

彼の前には暗い淵が大きな口を開け、地球の芯にまでまっすぐ通じていた。
そこに見えるのは堅い雲となって渦巻く虚無であり、聞こえるのは鼓膜を圧迫する深い沈黙だった。・・・
当時の彼は夢ひとつ見なかった。
もし見たとしても、それらは浮かぶ端から、手がかりのないつるりとした意識の斜面を虚無の領域に向けて滑り落ちていった。

こうして後輩・灰田の残していったフランツ・リストのピアノ独奏曲集の「巡礼の年」を聞きながら
フィンランドへの巡礼の旅支度を終えてソファに腰を下ろし、改めて郷愁と題された《ル・マル・デュ・ペイ》に耳を傾ける
「自分の唯一の死に場所こそアルプスである」と
小説「オーベルマン」の主人公オーベルマンがパリから友人に書き綴った望郷の念を音楽で表現したこの曲から
多崎つくるは自らの哀しみの輪郭を知覚する

《ル・マル・デュ・ペイ》。その静かなメランコリックな曲は、彼の心を包んでいる不定形な哀しみに、
少しずつ輪郭を賦与していくことになる。

まるで空中に潜む透明な生き物の表面に、無数の細かい花粉が付着し、その全体の形状が眼前に浮かび上がっていくみたいに。
今回のそれは沙羅の形をとっていた。

渦巻く虚無、鼓膜を圧する深い沈黙を齎した友人4人からの疎外の真実がフィンランドへの巡礼で明らかにされ
多崎つくるは沙羅を得るため沙羅の待つ筈の日本に戻る。
ラザール・ベルマンの演奏する「巡礼の年」の背景に沙羅からの電話が鳴り響く。
沙羅を得られなければ色彩を持たない多崎つくるは完全に色を失い、この世界から退場していくだろうと予感しつつ電話に出ることが出来ない。

色彩を持たない氷雪アルプスこそが唯一の死に場所との想いを奏でる《ル・マル・デュ・ペイ》をカンバスにして
描かれた多崎つくるの心象風景は、やがて風の音だけを残す
意識の最後尾の明かりが、遠ざかっていく最終の特急列車のように、徐々にスピードを増しながら小さくなり、夜の奥に吸い込まれて消えた。
あとは白樺の木立を抜ける風の音だけが残った。

それにしても色彩を持たない冷たいだけのお前さんに、未だほかほか湯気の立っている新刊本を朗読してもらうだなんて
思ってもみなかったな!
死に場所にアルプスを選んだと云う郷愁・《ル・マル・デュ・ペイ》が小説の彼方此方に通奏低音の如く流れているだけで
嬉しくて舞い上がってつい朗読してしまったというわけか。
まっ、おかげで本屋に並ばなくても済んだので助かったよ。なんでも発売一週間で100万部突破だって!
嬉しいね。この手の本が読まれるなんて。



落葉松も新芽を吹いたよ 座禅草の森
上条山の遅い春

昏い森に入って空を見上げたら
落葉松の梢が
朝日を散乱し語りかける。
「ふーん、其処は未だ昏くて
夜明け前なのか。
早く此処においでよ。
森全体が輝いているのが見えるぜ」

息を弾ませ稜線に出てみると
無数の赤紫の三つ葉躑躅が出迎え
芽吹いたばかりの木々が光り
草蘇鉄が陽光に微笑み
松の老紳士だって
懐かしそうに話しかけるんだぜ。

谷間を埋め尽くす木々の 片栗の森

稜線松の老紳士 上条山稜線

にょっきり出てきたのは草蘇鉄(屈み) 上条森

稜線をる三つ葉躑躅 上条山稜線



 
Catastrophe
荘厳なる緞帳
4月11日(木)晴 居間からの残照富士

137億年の認識を曳きずって確かに存在していた筈の私が、刻々と迫る天空の緞帳に覆われ喪失していく。
嘗て私が烈風吹き荒ぶ氷雪富士であったことすら忘れようとしている。
認識の終焉を祝福すべく断裂された氷雪富士を凝然と見つめる。
遙かなる未来と悠久なる過去の僅かな時空狭間に残された最後の断裂を落日が昏く重い朱に染めていく。



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