山荘日記
その2・冬-2006年睦月
1月23日(月)早朝曇り ー7℃ 於 東の森からの疎水(早朝トレーニングで)
森の裾を走る疎水が 鋭い寒気で凍りつき固体へと 変容しシャンデリアになった。 豊饒なエネルギーを孕み 天空を駆け抜けた水は エネルギーの減衰と共に 気体から液体へ変容し 更に固体となり 眠りに着いたのだ。 環境の悪化に伴い 知もシェルターを創り眠る。 深海に潜むシーラカンス 肺呼吸を獲得した後 海に戻ったイルカ 原人からの進化を拒み 極彩色の仮面の 内側に籠るパプア。 眠りによって 時空の試練に耐え 知は暫し未来へと継承され 生き延びる。 固体となった水は 彗星に乗って時空を飛び 新たなる生命の惑星を創る。 |
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シャンデリアの眠り |
1月23日(月)晴 ー7℃ 於 イオの部屋
ニ階のイオの部屋に入ったら 微かな囁きが聴こえた。 壁に掛かっている油絵の イオは沈黙しているし 窓辺の君子蘭も 何の変化も無いし。 待てよ、若しかすると・・・。 君子蘭の葉を そっと開いてみる。 「わー、蕾だ!」 山荘の冬が厳しいことは 言うまでも無い。 夜間は各部屋も 零下の寒気に支配される。 山荘で生命を受け継ぎ 満ち溢れた観葉植物は カリストの温室で越冬する。 しかし君子蘭は温室には入れず室内の寒気に晒したまま。 その君子蘭が もう蕾を着けている。 囁きは 早春のハミングだったんだ。 |
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早春賦・・・凍結からの目覚め |
1月22日(日)晴 ー6℃ 於 残照・北の森(夕刻トレーニングで)
生命の一滴を 時空のカンバスに落とすと 樹形図を描く。 人類の最も古い直接の 祖先・新人は 20万年前アフリカに登場し 大陸各地に拡散し 数万年前 原人や旧人に知を バトンタッチした。 北の森で一瞬目にした 樹間の太陽は 私の肉体の深奥の 眠りに触れた。 眠りは知の継承の 瞬間を追憶し 確かに数万年前私が 此処に居たと告げる。 太陽が知を二股に分断し パプアの枝は 《知の凍結》を選んだ。 私の枝を捜さねば |
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Deja vu ・既視感 |
1月22日(日)晴 於 夜の山荘居間
3万年前・・・ 遥かなる過去に パプアで知への 一歩を踏み出した原人。 最初の衣装は蔓で編んだ お洒落なペニス・ケース だったのだろうか? その同じペニス・ケースを 見つけた時は 何故か懐かしい 親しみすら覚えた。 彼らは極彩色に 顔を塗りたくり ペニス・ケースをつけ 槍を持ち闘争心を 剥き出しにして 今でも激しく踊り狂う。 彼らに逢いたいと 問い合わせた。返事は 「彼らは観光客に見せる 為に踊ることは無い」・・ 益々嬉しくなった。 ペニス・ケースを仮面に 銜えさせてみた。 題して《知の凍結》 |
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パプア・ニューギニア仮面 |
2006年1月5日(木)晴 ー8℃ 於 山荘奥庭
瑠璃鶲が美しい瑠璃色の 尾をピーンと伸ばしたまま 静かに奥庭で横たわっていた。 冬将軍に追われ亜高山帯から 山荘に下りてきて 春まで透き通った声を 山荘に響かせる はずだったのに。 犯人は 《北極振動マイナス2》。 北極の冷たい極渦の 低気圧が弱まり 冷気が日本にまで 流れ込んでしまったのだ。 例年だと山荘はこの時期 暖かい雪に包まれ 沢山の冬鳥が 山荘の北森の団栗を狙って 越冬する。 でも今冬の寒さは それを許さない。 |
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るりびたき・凍死 |
2006年1月3日(火)曇 ー7℃ 於 東森への杣道(早朝トレーニングで)
ガラスのようにピーンと 凍りつき透明になった 大気に朱が飛び散る。 山稜を繋ぐ杣道を 走っているとあちこちの 葉を落とした木々に 朱が光る。 冬の花・山茶花さえも 凍りつき花の絶えた 冬の山荘を彩る一枝の 蔓梅擬きだ。 大型油絵《時空の渚》を飾り 2次元の絵の世界と3次元の 山荘空間を繋ぐ蔓梅擬き。 額縁に閉じ込められていた 《時空の渚》は 蔓梅擬きを通して ゆるゆると山荘空間に 流れ出す。 そうか!梅擬きは 星の終焉・赤色巨星を 素材として創られた クライン管だったのか! |
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蔓梅擬き |
2006年1月2日(月)曇 ー8℃ 於 竹森川源流(早朝トレーニングで)
春一番に雪の下から顔を出し 花を咲かせる座禅草を見守り 夏の宵闇に乱舞する蛍を育て 宝石のような翡翠や鶺鴒を 招き入れる竹森川。 片栗の森から竹森川源流 に沿って上条峠に走った。 −8度Cの冷たい空気が 肺に流れ込み胸が痛む。 薄暗い谷底が光った。 谷に散在する岩が 氷のシャンデリアに覆われ ギアマンの銀河となって 浮かぶ。 瑠璃鶲の命を奪った 《北極振動マイナス2》は この銀河の下に眠る 大山椒魚をも 狙っているのか? 流れが早春賦を奏でる頃 山椒魚に逢えますように! |
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氷結・竹森川源流 |
2006年1月1日(日)晴 早朝 ー8℃ 於 小倉山山稜(早朝トレーニングで)
どんなに優雅で繊細な彩を纏って舞うか 知っているかい? 2日前、南太平洋の珊瑚海で 巨大マンタ(鬼糸巻?)が 頭上で優雅に舞い始めた時 「あーこの舞は何処かで見たことがある」と 強烈に実感したんだけど それが何処で何であったのか分からなかったんだ。 でも今この山繭を見てはっきり分かった。 あの舞は初めての山荘の夏にやって来て 毎夜舞い続けた山繭蛾と同じだったんだ。 大きく優雅に羽ばたき大窓の網戸に羽を休めた時 そのあまりの繊細な淡緑色の彩に見とれてしまった。 でも山繭蛾は図鑑だと幼虫のみ淡緑色で 成虫は黄褐色となっているので あの時の美しい蛾とは異なるのかも知れない。 しかしこの繭は確かに山繭で この山稜にある椚や楢の葉を食べて育ち 美しい糸になるんだ。不思議だね。 南太平洋のマンタに出逢ってから帰国後の 最初の印象的な生命との出逢いが この山繭だなんて! 生命は か細い1本の糸で繋がっているんだね。 |
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山繭・天蚕(テンサン) |
2006年1月1日(日)晴 夕刻 ー2℃ 於 Sansou(夕刻トレーニングで)
《地球最後の楽園》・ パプアニューギニア から大晦日の深夜に 目白に戻り 更に山荘へ。 早速山トレーニング開始。 2006年最初の落日 を追って 本日2つ目の山頂・扇山 へと走る。 扇山稜線に出ると 今まさに南アルプス山稜に 太陽が落ちる瞬間。 「間に合った!」 2日前の 南半球の落日と比べると 何と弱々しい光。さて この光に 何を託そう。 |
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06年最初の扇山残照 |